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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第4章 ハニームーン・ペーパームーン 〜蜜・月・旅・行〜
「…突然彼を失った私は、もう生きる屍のようなものでした…。私には彼が全てだった。…自分も死んでも構わない…いいえ、いっそ彼のところに行きたいと、ふらふらとあてどなく夜の大川の橋を渡っていました…。
…気がついた時には、私は橋の欄干を乗り越えようと身を乗り出しておりました」
暁は息を呑む。
…大川といえば暁も馴染みの深い川だ。
生前の母に一度だけ連れて行ってもらった花火大会…。
…そして、月城が陛下にお眼にかかる機会をふいにしてまで自分を連れて行ってくれた花火大会…。
お揃いの浴衣を作ってくれたのだ…。
暁には幸せな記憶しかない大川…。
葵の薄く紅が塗られた唇がゆっくり開く。
「…次の瞬間、強い力で私は引き戻されておりました。…月城さんが…私を抱き締めて、身投げを止めて下さったのです…」
暁の脳裏にその光景がまるで目の前で起こったことのように鮮明に思い浮かんだ。
…恋人を亡くした若く美しい女学生の身投げを必死で止める月城…。
彼はきっと自分の恋人の命を救うかのように命懸けで彼女を引き戻したのだろう…。
「…月城さんは、私の様子がおかしいのを心配されて下宿からずっと付けていらしたのです。…私が、彼を亡くして生きている甲斐がないと…死にたいと泣き喚くと…その胸に優しく抱き締めてくださいました…。私が泣き止むまでずっと…何も言わずに…」
。葵に同情しなくてはいけないのに、嫉妬めいた感情が渦巻く。
醜い心の自分を恥じる。
「…それから月城さんは私が立ち直るまで辛抱強く、影になり日向になり支えてくださいました。…辛い時にはずっと話しを聞いて下さって…私が立ち直れたのは、月城さんのお陰です…」
…月城は、そういう人だ。
ただひたすら、辛い人のそばにいて話しを聞き、心を寄り添わせてくれる。
…自分も大紋を失った時、どれだけ彼に救われたか分からない…。
…月城は…優しい…優しすぎる人なのだ…。
葵の告白は暁の胸に切なく…胸が騒めくほどの衝撃をも与えた。
…僕は葵さんに嫉妬している…。
狭い心の自分に自己嫌悪を覚える。
…気がつくと、口走っていた。
「…葵さんは、月城さんのことを…」
葵はゆっくりと暁を見上げた。
「…私、大学の卒業式の日に、月城さんに告白しましたのよ。…貴方が好きです…と」
暁の長い睫毛が震える。
二人の間に再び、激しい夜風が吹き荒れた。
…気がついた時には、私は橋の欄干を乗り越えようと身を乗り出しておりました」
暁は息を呑む。
…大川といえば暁も馴染みの深い川だ。
生前の母に一度だけ連れて行ってもらった花火大会…。
…そして、月城が陛下にお眼にかかる機会をふいにしてまで自分を連れて行ってくれた花火大会…。
お揃いの浴衣を作ってくれたのだ…。
暁には幸せな記憶しかない大川…。
葵の薄く紅が塗られた唇がゆっくり開く。
「…次の瞬間、強い力で私は引き戻されておりました。…月城さんが…私を抱き締めて、身投げを止めて下さったのです…」
暁の脳裏にその光景がまるで目の前で起こったことのように鮮明に思い浮かんだ。
…恋人を亡くした若く美しい女学生の身投げを必死で止める月城…。
彼はきっと自分の恋人の命を救うかのように命懸けで彼女を引き戻したのだろう…。
「…月城さんは、私の様子がおかしいのを心配されて下宿からずっと付けていらしたのです。…私が、彼を亡くして生きている甲斐がないと…死にたいと泣き喚くと…その胸に優しく抱き締めてくださいました…。私が泣き止むまでずっと…何も言わずに…」
。葵に同情しなくてはいけないのに、嫉妬めいた感情が渦巻く。
醜い心の自分を恥じる。
「…それから月城さんは私が立ち直るまで辛抱強く、影になり日向になり支えてくださいました。…辛い時にはずっと話しを聞いて下さって…私が立ち直れたのは、月城さんのお陰です…」
…月城は、そういう人だ。
ただひたすら、辛い人のそばにいて話しを聞き、心を寄り添わせてくれる。
…自分も大紋を失った時、どれだけ彼に救われたか分からない…。
…月城は…優しい…優しすぎる人なのだ…。
葵の告白は暁の胸に切なく…胸が騒めくほどの衝撃をも与えた。
…僕は葵さんに嫉妬している…。
狭い心の自分に自己嫌悪を覚える。
…気がつくと、口走っていた。
「…葵さんは、月城さんのことを…」
葵はゆっくりと暁を見上げた。
「…私、大学の卒業式の日に、月城さんに告白しましたのよ。…貴方が好きです…と」
暁の長い睫毛が震える。
二人の間に再び、激しい夜風が吹き荒れた。