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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第4章 ハニームーン・ペーパームーン 〜蜜・月・旅・行〜
暫くの沈黙ののちに、葵はふっと眼差しの強さを和らげ、明るく微笑った。
「…あっさり振られました。…自分は、北白川伯爵に大恩がある。一生、伯爵家に忠誠を誓っている身だから、生涯妻を娶る気はないし、恋人を持つ気もない。…それに親友の恋人の私を奪うわけにはいかない…と。…だから、私には相応しい人を見つけて幸せになってほしいと…きっぱり…。清々しいほどの断られ方でしたわ」
「…葵さん…」
…当時、月城は梨央に恋い焦がれていたはずだ。
葵には告げなかったのだろうが、月城は生涯を梨央に捧げる覚悟だったのだろう。
…清らかなお伽話のように美しい初恋…。
今更ながら、暁の胸は疼く。

俯く暁を葵は優しい眼差しで見つめ、告げた。
「…生涯結婚はしないし、恋人は作らない…なんて言っていたのに、縣様みたいなお美しい方をお連れになってお忍び旅行されるなんて…月城さんはすっかり別人のよう」
「…葵さん…」
少し悪戯めいた口調で続ける。
「月城さんは縣様に夢中ですのね。あの方のお貌を見ただけで分かりましたわ。…あんなに情熱的な眼をされた月城さんを初めて拝見しました。…少し…羨ましかったですけれどね…」
「葵さん…」
「…縣様、私は月城さんに感謝しておりますの。あの方が自殺を思いとどまらせて下さったから、今の私がいるのですから…」

…その時、母屋の方から軽い足音が聞こえた。
「お母様!…もうお仕事は終わり?」
年の頃、六つばかりの振り分け髪姿の可愛らしい幼女が葵の膝に抱きついてきた。
「…あと少しよ。…こちらに来てはいけませんと言ってあるでしょう?」
窘めながらも葵の表情も声もすっかり優しい母親のそれだ。
驚く暁に葵は笑いかけ、紹介する。
「娘の栞です。…栞、お客様の縣様よ。ご挨拶なさい」
栞と呼ばれた娘は葵の着物の袖を掴みながら暁を見上げ恥ずかしそうに、しかしきちんと挨拶した。
「…こんばんは…」
その可愛らしさに暁は思わず微笑んだ。
「こんばんは」

「…月城さんに振られたあと、私は信州に帰りました。実家の旅館を継ぎ、お見合いで結婚し…六年前に栞を授かりました。…主人は会計士で、一緒にこの仕事を手伝ってくれます。…彼や月城さんのようにハンサムではないけれど、とても真面目で優しい家族思いの人です」
葵は栞の髪を優しく撫でてやりながら説明する。
その言葉には確かに温かな愛情が存在した。
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