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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第4章 ハニームーン・ペーパームーン 〜蜜・月・旅・行〜
「…栞、栞!…まだそちらに行ってはだめだよ。お母様はお仕事中だからね…」
母屋から小走りでこちらにやってくる人影があった。
「…あ!…お客様でしたか。これは…申し訳ありません」
暁を見てにこにこしながら頭を下げる男性…。
大柄で丸眼鏡を掛けたその貌はとても優しそうで、そのまま温かな人柄が伝わってくるようだった。
「…主人です。自分の会社の仕事が終わると、栞の面倒を見てくれているのです。…貴方、こちら縣男爵様の弟様です。月城さんとご一緒にお泊まり下さっているのよ」
葵の夫は頭を掻きながら陽気に挨拶する。
「月城様にはいつもお世話になっております。ようこそお越し下さいました…いやあ。…東京のお方は皆んな、月城様や縣様のように眩しいくらいお美しいんですかねえ…。私みたいなむさ苦しい男は、なんだかドキドキしちゃって…あ、すみません。余計なお喋りしてしまって、失礼しました。
…さあ、栞。お父様がご本を読んであげるから、おうちに戻ろうね。
…葵さん、栞は寝かしつけておくからゆっくりしておいで」
妻に優しく告げる。
「ありがとう、貴方。よろしくお願いしますね」
葵の表情も満たされた幸せそうな妻そのものだ。
栞の小さな手を引き、明るく話しながら母屋に帰る夫を眼を細めて見送りながら、穏やかに呟く。
「…私は今、幸せです。優しい夫がいて、愛おしい娘がいて…。この掛け替えのない幸せは紛れもなく月城さんが下さったものなのです。…だから私は月城さんに感謝しているのですよ」
「…葵さん…」
…何か言おうとしたが、感激で胸が一杯になり言葉にならない。
…と、葵が本館の方に首を巡らし、微笑んだ。
「…噂をすればなんとやら…ですわ」
「…え?」
…行燈に照らされたすらりとした美しい体躯の男が藍染めの浴衣姿で颯爽とこちらに向かってくる。
…月城だ。
暁の姿を認めると、ほっとしたように表情を和ませた。
胸が白湯を飲んだ時のように温かくなる。
「…さあさあ、お邪魔虫は退散いたしますわね。
…では、縣様。ごゆっくり…」
最後はやや婀娜めいた微笑を投げかけると、月城に会釈しながらすれ違い、葵は母屋の方へと去っていった。
月城は葵を振り返り、尋ねる。
「…葵さんと何の話をしていたのですか?」
暁は月城の胸に飛び込み、背中を強く抱く。
男への愛おしさに涙ぐみそうになる。
「…素敵なお話だよ…」
母屋から小走りでこちらにやってくる人影があった。
「…あ!…お客様でしたか。これは…申し訳ありません」
暁を見てにこにこしながら頭を下げる男性…。
大柄で丸眼鏡を掛けたその貌はとても優しそうで、そのまま温かな人柄が伝わってくるようだった。
「…主人です。自分の会社の仕事が終わると、栞の面倒を見てくれているのです。…貴方、こちら縣男爵様の弟様です。月城さんとご一緒にお泊まり下さっているのよ」
葵の夫は頭を掻きながら陽気に挨拶する。
「月城様にはいつもお世話になっております。ようこそお越し下さいました…いやあ。…東京のお方は皆んな、月城様や縣様のように眩しいくらいお美しいんですかねえ…。私みたいなむさ苦しい男は、なんだかドキドキしちゃって…あ、すみません。余計なお喋りしてしまって、失礼しました。
…さあ、栞。お父様がご本を読んであげるから、おうちに戻ろうね。
…葵さん、栞は寝かしつけておくからゆっくりしておいで」
妻に優しく告げる。
「ありがとう、貴方。よろしくお願いしますね」
葵の表情も満たされた幸せそうな妻そのものだ。
栞の小さな手を引き、明るく話しながら母屋に帰る夫を眼を細めて見送りながら、穏やかに呟く。
「…私は今、幸せです。優しい夫がいて、愛おしい娘がいて…。この掛け替えのない幸せは紛れもなく月城さんが下さったものなのです。…だから私は月城さんに感謝しているのですよ」
「…葵さん…」
…何か言おうとしたが、感激で胸が一杯になり言葉にならない。
…と、葵が本館の方に首を巡らし、微笑んだ。
「…噂をすればなんとやら…ですわ」
「…え?」
…行燈に照らされたすらりとした美しい体躯の男が藍染めの浴衣姿で颯爽とこちらに向かってくる。
…月城だ。
暁の姿を認めると、ほっとしたように表情を和ませた。
胸が白湯を飲んだ時のように温かくなる。
「…さあさあ、お邪魔虫は退散いたしますわね。
…では、縣様。ごゆっくり…」
最後はやや婀娜めいた微笑を投げかけると、月城に会釈しながらすれ違い、葵は母屋の方へと去っていった。
月城は葵を振り返り、尋ねる。
「…葵さんと何の話をしていたのですか?」
暁は月城の胸に飛び込み、背中を強く抱く。
男への愛おしさに涙ぐみそうになる。
「…素敵なお話だよ…」