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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第4章 ハニームーン・ペーパームーン 〜蜜・月・旅・行〜
葵から届けられた着物は秋の七草の萩と桔梗を描いた見事な単衣であった。
月城が藍染、暁が白地なのも二人の個性を鑑みて選んでくれたらしい。
着付けは月城がしてくれた。
…月城は着付けも巧みだ。
北白川伯爵の従者、狭霧仕込みの着付けだそうだが、きっちりと着込めているのに苦しいところがひとつもなく、またほっそりとして痩せている暁のシルエットを美しく見せるように着付けられていた。
「…下着はお着けにならないでくださいね」
と、とうとう下着を着けさせてもらえなかったことが唯一の不満くらいであった。
深志神社に近づくと陽気なお囃子や笛の音色が聞こえてきた。
温泉の宿泊客はもちろんのこと、近所の子どもたちや親子連れなど、なかなかの人出であった。
参道の脇には賑やかな縁日の屋台が軒を連ねている。
…金魚掬い、お面、おはじき、風車、綿あめ、水飴…
初めて見る光景に暁は眼を輝かせる。
14歳で礼也に引き取られてからは万事西洋式の生活で育てられたので、祭りや縁日の類いは無縁だったのだ。
暁も新しい生活に慣れるのに精一杯で、祭りのことなど忘れていた。
子どものようにきらきらとした瞳で屋台を眺める暁に、月城が囁く。
「…何をなさいますか?金魚掬い?」
子どもたちが賑やかに色鮮やかな金魚を掬っては歓声を上げている。
「金魚?」
暁もその光景を楽しげに眺めながら
「…ここから東京に運ぶまでに死んだら可哀想だ」
と、首を振る。
「では何か召し上がりますか?」
暁は楽しげに周りを見渡す。
「…あれはなに?」
白くほっそりとした指で示す方を見る。
…真っ赤な宝石のように輝く林檎を食紅で染め、飴で固められた林檎飴の屋台だ。
「林檎飴ですよ」
「りんごあめ?」
不思議そうに屋台に所狭しと並べられた割りばしに刺さった紅い林檎飴をまじまじと見つめる。
月城は優しく笑いかけ、
「百聞は一見に如かずです」
屋台の店主に金を払い、林檎飴をひとつ買ってやる。
暁は眼を輝かせる。
「ありがとう…」
まるで父親にお菓子を買ってもらった子どものように無邪気な笑顔を見せた。
暁は恐る恐る林檎飴に齧り付く。
ぱりんと乾いた音がして、飴の部分が割れる。
驚きながら咀嚼して…弾けるような笑顔になる。
「美味しい…林檎が甘酸っぱくて飴が甘くて…すごく美味しい!」
暁への愛おしさに胸が一杯になり、月城は眼を細める。
月城が藍染、暁が白地なのも二人の個性を鑑みて選んでくれたらしい。
着付けは月城がしてくれた。
…月城は着付けも巧みだ。
北白川伯爵の従者、狭霧仕込みの着付けだそうだが、きっちりと着込めているのに苦しいところがひとつもなく、またほっそりとして痩せている暁のシルエットを美しく見せるように着付けられていた。
「…下着はお着けにならないでくださいね」
と、とうとう下着を着けさせてもらえなかったことが唯一の不満くらいであった。
深志神社に近づくと陽気なお囃子や笛の音色が聞こえてきた。
温泉の宿泊客はもちろんのこと、近所の子どもたちや親子連れなど、なかなかの人出であった。
参道の脇には賑やかな縁日の屋台が軒を連ねている。
…金魚掬い、お面、おはじき、風車、綿あめ、水飴…
初めて見る光景に暁は眼を輝かせる。
14歳で礼也に引き取られてからは万事西洋式の生活で育てられたので、祭りや縁日の類いは無縁だったのだ。
暁も新しい生活に慣れるのに精一杯で、祭りのことなど忘れていた。
子どものようにきらきらとした瞳で屋台を眺める暁に、月城が囁く。
「…何をなさいますか?金魚掬い?」
子どもたちが賑やかに色鮮やかな金魚を掬っては歓声を上げている。
「金魚?」
暁もその光景を楽しげに眺めながら
「…ここから東京に運ぶまでに死んだら可哀想だ」
と、首を振る。
「では何か召し上がりますか?」
暁は楽しげに周りを見渡す。
「…あれはなに?」
白くほっそりとした指で示す方を見る。
…真っ赤な宝石のように輝く林檎を食紅で染め、飴で固められた林檎飴の屋台だ。
「林檎飴ですよ」
「りんごあめ?」
不思議そうに屋台に所狭しと並べられた割りばしに刺さった紅い林檎飴をまじまじと見つめる。
月城は優しく笑いかけ、
「百聞は一見に如かずです」
屋台の店主に金を払い、林檎飴をひとつ買ってやる。
暁は眼を輝かせる。
「ありがとう…」
まるで父親にお菓子を買ってもらった子どものように無邪気な笑顔を見せた。
暁は恐る恐る林檎飴に齧り付く。
ぱりんと乾いた音がして、飴の部分が割れる。
驚きながら咀嚼して…弾けるような笑顔になる。
「美味しい…林檎が甘酸っぱくて飴が甘くて…すごく美味しい!」
暁への愛おしさに胸が一杯になり、月城は眼を細める。