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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
…12歳になった紳一郎は十市が屋敷にやってくる12月がなにより楽しみだった。
軽井沢はとっくに冬景色のはずだ。
早く東京に来ればいいのにと焦れったい思いを毎年するのだ。
だから去年の冬もそう訴えた。
「もっと早く東京に来てよ。…軽井沢はどうせもう雪でしょう?狩りもできないんだし…」
そう言うと、十市は困ったような貌をして彫りの深い眼を細めた。
「…雪でも猟場の点検や修理をしなきゃならないんです…」
…でも…と、十市は紳一郎の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「来年は…少し早く東京にゆきます」
…そう照れたように笑って、約束してくれたのだ。

紳一郎は学院の窓の外をそわそわと眺めながら壁の時計を睨む。
退屈なラテン語の授業は遅々として進まない。
…早く終わらないかな…。
鉛筆をいらいらと動かす。
授業の内容なんか、ひとつも頭に入らない。

今日はいよいよ軽井沢から十市が戻ってくる日なのだ。
昨夜、執事がそっと教えてくれたのだ。

チャイムが鳴ると、ホームルームもそこそこに教室を飛び出し、階段を駆け下りる。
「おい、紳一郎!どうしたんだよ?」
クラスメートが声をかけるのにもお構い無しだ。
玄関に到着している迎えの車に乗り込む。
乗り込むなり、運転手に弾む声で尋ねる。
「ねえ。十市、来てる⁉︎」
運転手は日頃、笑顔が少なく端正な人形のように大人しげな紳一郎が興奮した貌を見せるのに、やや驚きながら答える。
「はい。先ほど到着しましたよ」

紳一郎は満面の笑みになる。
「良かった…!」
…十市に会うのは三ヶ月ぶりだ。
8月末に軽井沢で別れてから、ずっと楽しみにしていたのだ。
夏休みは学校が始まるぎりぎりまで軽井沢にいた。
一年のうちで十市とずっと一緒にいられるのは夏休みの一ヶ月半だけだからだ。
12月から3月までは東京にいるけれど、紳一郎は学校があるし、十市もやることはたくさんあるので、なかなかゆっくりとは会えない。
けれど、領地内に十市がいつでもいるという安心感は何にも代え難く…だから紳一郎は冬は夏に次いで好きな季節だった。

…これからは毎日十市に会える…!
そう思うと胸の中が温かくなるのと同時に、くすぐったいような幸福感に包まれるのだった。




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