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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
「十市!」
食堂に駆け込む。
椅子に座っていた大柄な逞しい背中をした男が振り返る。
長く艶やかな緩い巻き毛の黒髪が揺れる。
驚く程に濃い睫毛に囲まれた神秘的な黒い瞳が見開かれ、やがてそれは笑みの形に変わった。
「坊ちゃん…」
紳一郎はその分厚い胸に飛び込む。
黒いタートルネックのシャツに黒い革のジャケット…。
安い煙草の匂いがする。
でも、ちっとも嫌じゃない。
…十市の匂いだ。…
紳一郎はまるで花の香りを嗅ぐように深呼吸する。
「やっと来た。もう…遅いよ、今年も!」
再会できた嬉しさから、気恥ずかしさが先に立ち、つい文句を言ってしまう。
しかし十市は気にする様子もなく、しみじみと紳一郎の貌を見つめ、ゆっくり微笑んだ。
「…すみません、坊ちゃん。狩猟小屋の修理に時間がかかってしまって…」
その黒い瞳が改めて紳一郎をまじまじと見つめ、ふと言葉を漏らした。
「…坊ちゃん。…また綺麗になりましたね…」
そうして眩しげに目を細めた。
十市はいつも紳一郎の容姿をあからさまに褒める。
口数が少ない男なだけに、その言葉はとても率直で紳一郎はいつもとても恥ずかしくなる。
もじもじしていると、思いがけない言葉が男の口から漏れた。
「…奥様に良く似ていらした…」
紳一郎はかっとなる。
「やめてよ!僕は男だ!」
十市の瞳が慌てたように瞬かれ、申し訳なさそうに詫びる。
「すみません。…綺麗だと言いたかったんです…」
女のようだと比喩されたのが嫌なのではない。
大嫌いな母に似ていると言われたのが嫌なのだった。
…あんな…あんなふしだらな母に似ているなんて…!

事の成り行きを見守っていた料理長の安佐が場を和ませるように口を挟む。
「まあまあ、紳一郎様はとにかく美少年でいらっしゃるから、つい美人の奥様に似ているように思えるんでしょうね。私はあまり似ていらっしゃるとは思いませんがね。
…さあさあ、それより坊ちゃまもご一緒に召し上がりませんか?ミートパイとミネストローネ、安佐の自信作ですよ」
陽気に声をかけながらもう十市の隣に席を作ってくれる。
紳一郎は折角の十市との再会を嫌な雰囲気にしたくなくて、素直に座る。
十市はそれを嬉しそうに眺めていた。
安佐が紳一郎の食器を用意しに席を立つ。
紳一郎は俯いたまま呟く。
「…本当に…待っていたんだ…十市を…」
十市はすぐに黙って頭を撫でてくれた。




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