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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
安佐は温かいミートパイとミネストローネを出すと気を利かせてキッチンに引っ込んだ。
普段、あまり使用人に心を開かない感情の乏しい紳一郎が十市にだけは懐いていることを知っているからだ。

紳一郎は美味しいミートパイを頬張りながら、秋から今までにあったことを十市に話す。
学校のこと、友達のこと、最近始めた馬術のこと…。
十市は我が事のように熱心に聞いてくれる。
人見知りの激しい紳一郎が友達の話をするのが一番嬉しいらしい。
仲良しの友達ができたと話すとそれは嬉しそうに笑った。
「ねえ、十市の話を聞かせてよ。軽井沢は雪、すごい?」
「すごいです。俺の身長くらい積もってます」
「十市の身長⁈…僕なら埋まっちゃうね」
「はい。俺も一度、雪下ろしをして埋まりかけました」
戯けて言う表情が可笑しくて紳一郎は声を上げて笑った。
「気をつけてよね。十市が怪我をしたら嫌だ」
「はい。俺は頭が悪いけれど、身体だけは頑丈ですから大丈夫です」
紳一郎の気遣いを嬉しげに受け、照れたように珈琲を飲む。
「十市は頭は悪くないよ!天気のこと、動物のこと、植物のこと、誰より知っているし、家も建てられるし…壊れた家具やなんかもあっという間に直しちゃうじゃないか」
本当にそう思う。

十市は学校に通ったことがない。
生まれた時からずっと森番の父親について軽井沢の領地で過ごして、父親が失踪してからは彼の跡を継ぎ、森番になったので学校に通う機会がなかったのだ。
だから紳一郎は去年から十市に読み書きと簡単な計算を教えていた。
仕事が終わってからの数時間、紳一郎には十市を独占できる何より楽しい時間だった。
十市は学はなかったが、元々とても勘の良い賢い青年だったので、見る見るうちに読み書きを覚え、足し算引き算、そして去年には九九も暗記してしまった。
「…これで町に買い物に出た時に勘定をごまかされないで済みます」
十市はひどく感謝したが、紳一郎は今まで彼が無学の為に理不尽な目に遭ったのかと思うと、切なくて思わず十市を抱きしめた。
「…僕が十市に何でも教えてあげる!僕が知っていることはなんでも!」
十市はやはり黙って紳一郎の頭を優しく撫でてくれた。

二人が笑い合っていると、ふと艶めいた…婀娜っぽい声が聞こえた。
高価な香水の香り…。
紳一郎は身体を硬くした。

「あら、十市。来ていたのね。…相変わらずハンサムだこと!」
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