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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
…そのあとはもう全く人が違ったかのような十市であった。
紳一郎の細い腕を逞しい褐色の手で引き寄せ、強引に唇を奪う。
「…あっ…んん…」
十市の舌は肉厚でざらりとし…そして熱かった。
まるで獰猛な肉食動物のように紳一郎の柔らかな可憐な唇を喰らい尽くすかのように食み、荒々しく散らしてゆく。
初めての濃厚なくちづけに怯える紳一郎の舌を無理やり奪い、千切れるほどに絡め、口内を思うさまに蹂躙される。
「…ああ…ん…っ…じゅ…い…ち…」
苦しくて思わず息を弾ませる。
十市はその彫りの深い黒い瞳にぎらぎらとした欲情の色を浮かべ、紳一郎の唇を離そうとしなかった。
睨みつけるように熱い眼差しで紳一郎を見つめると、再び唇を貪る。
くちづけの合間に、紳一郎の貌を狂おしく大きな手で撫で回す。
その黒い闇色の瞳には途方もない哀しみの色が浮かんでいた。
「…あんたには…手を出す気はなかったのに…!あんただけは…どんなことがあっても…!」
呻くように吐露する。
苛立ちと興奮と情動…全てをぶつけるように紳一郎の初心な唇を貪り続ける。
「…じゅ…い…は…ああ…っ…ん…」
いやらしい水音を立てながら十市が紳一郎の舌と唇を巧みに翻弄するのをじわじわと昂まる快楽に溺れ始めながら感じていた。
「…坊ちゃん…!」
男の荒々しくいくちづけにより紳一郎の唇はすっかり腫れ上がり、掠れた吐息しか漏らすことはできない。
「…まっ…て…くるし…いき…がっ……んっ…」
紳一郎の必死の懇願により、唾液が細く銀色の糸を引き、漸くくちづけが終わる。
「…十市…」
潤んだ瞳で十市を見上げる。
「…キスって…こんなにいやらしいものだったんだね…」
十市が初めて小さく微笑った。
それはいつもの優しい十市で紳一郎は少しほっとする。

…しかしそれは束の間のことだった。
十市は荒鷲が獲物の小鳥を攫うように紳一郎を肩に抱き上げると、そのまま大股で隣の寝室に向かい始めた。



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