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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
ひとしきり泣きじゃくり、漸く気持ちが落ち着くまで、十市は紳一郎を抱きしめたまま離さなかった。
やがて泣き腫らした目を愛しげに見つめ、相変わらずくしゃくしゃの手巾を隠しから取り出し涙を拭いてやり、洟をかんでやる。
「…坊ちゃんは変わらないな…相変わらず泣き虫だ」
十市の手から手巾をひったくり、乱暴に洟をかみ男を睨みつける。
「誰のせいだ⁈」
「…変わらないが…あの頃よりもっと綺麗になっていて…あんたが入ってきた時、驚いた…」
飾り気のない真摯な言葉は相変わらずだ。
紳一郎は照れ隠しにそっぽを向く。
「…何を言っているんだ…」
「本当だ。…俺はあんたに会いたくなかった。会ったらきっと離れられなくなる。だからあんたが不細工になって…可愛くなくなっていたらいいとずっと願っていた」
紳一郎はたじろぐ。
「め、滅茶苦茶なことを言うな」
「…でも、あんたは俺が想像していたより遥かに綺麗になっていた。…こんな…綺麗な人間を俺は見たことがない…」
熱の篭った言葉とともに、紳一郎の貌を武骨な大きな手が撫で回す。
「…褒め過ぎだ…」
仏頂面のまま、その手に手を重ねる。
そして、男を見上げる。
…彫りの深い野性味溢れる精悍な貌…。
闇色の黒い瞳…。
一見暗いが、紳一郎にはいつも慈しみ深い眼差しで見つめてくれた美しい黒い瞳だ。
「十市。話してくれ。なぜあの日、僕を残して消えてしまったのか…。本当のことを全て話してくれ…」
十市は紳一郎を見つめ返したまま押し黙っていたが、やがて静かに頷くと、ゆっくりと口を開き始めた。
やがて泣き腫らした目を愛しげに見つめ、相変わらずくしゃくしゃの手巾を隠しから取り出し涙を拭いてやり、洟をかんでやる。
「…坊ちゃんは変わらないな…相変わらず泣き虫だ」
十市の手から手巾をひったくり、乱暴に洟をかみ男を睨みつける。
「誰のせいだ⁈」
「…変わらないが…あの頃よりもっと綺麗になっていて…あんたが入ってきた時、驚いた…」
飾り気のない真摯な言葉は相変わらずだ。
紳一郎は照れ隠しにそっぽを向く。
「…何を言っているんだ…」
「本当だ。…俺はあんたに会いたくなかった。会ったらきっと離れられなくなる。だからあんたが不細工になって…可愛くなくなっていたらいいとずっと願っていた」
紳一郎はたじろぐ。
「め、滅茶苦茶なことを言うな」
「…でも、あんたは俺が想像していたより遥かに綺麗になっていた。…こんな…綺麗な人間を俺は見たことがない…」
熱の篭った言葉とともに、紳一郎の貌を武骨な大きな手が撫で回す。
「…褒め過ぎだ…」
仏頂面のまま、その手に手を重ねる。
そして、男を見上げる。
…彫りの深い野性味溢れる精悍な貌…。
闇色の黒い瞳…。
一見暗いが、紳一郎にはいつも慈しみ深い眼差しで見つめてくれた美しい黒い瞳だ。
「十市。話してくれ。なぜあの日、僕を残して消えてしまったのか…。本当のことを全て話してくれ…」
十市は紳一郎を見つめ返したまま押し黙っていたが、やがて静かに頷くと、ゆっくりと口を開き始めた。