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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
十市は一つだけある粗末な木の椅子を紳一郎に勧め、自分は傍らの質素なベッドに腰掛け、語り出した。
…十市の語り始めた事実は驚くべきものであった。
「…俺が坊ちゃんを抱いた翌朝のことだ…。
旦那様が俺の山小屋に坊ちゃんを探しに来て、俺と坊ちゃんが寝ているところを見てしまったんです」
紳一郎は目を見張り驚く。
「え?父様が?」
紳一郎が目覚めたのは正午近くであった。
もぬけのからのベッドに茫然とし、十市を探し回り、落胆のまま屋敷に戻ると…確かに父、公彦が予定より早く別荘に到着していたのだ。
しかし父に変わった様子はなかった。
翌日も十市は姿を現さなかった。
思いあぐねた挙句、父に十市の不在を尋ねると…
「彼は急に森番を辞めたようだ。行き先は私も知らないな」
と、素っ気ない返事が返ってきたのみであった。
…やはり自分は捨てられたのだ。
十市に嫌われたのだと、紳一郎はそれ以上父に十市の行方を尋ねる気力も失くし、口を噤んだ。
それ以来、父に十市のことを尋ねたことはない。
…その父が…十市に会っていたのか…。
十市は淡々と話を続けた。
「…旦那様は俺を呼び出し、どういうことかと尋ねました。…俺は…坊ちゃんが好きだと答えました。坊ちゃんを愛しているから、抱いたと答えて…殴られました」
「え⁉︎父様が⁈」
公彦は紳士だ。
多少神経質なきらいはあるが、使用人にはいつも丁寧に接する。絶対に手を挙げるような野蛮なことはしない。
…その父が…。
「旦那様が怒るのは無理ない…。俺はしてはならないことをした。子どもで…しかも公爵家の御曹司のあんたを抱いてしまった。殴られて当然だ。
だから俺は旦那様に土下座して詫びた。…詫びた上で、坊ちゃんを愛しているから、側にいさせてくれと頼んだ。…旦那様は尚怒り、俺は解雇された…。
…今すぐ出て行けと。警察には届けない。坊ちゃんの将来に傷が付くからと…。その代わりすぐに出て行き、二度とあんたに会うなときつく言われたんだ」
紳一郎は深いため息を吐いた。
「…そうだったのか…」
…だから父は知らないと言い張り、他の使用人…執事や家政婦、下僕やメイドに至るまで全てに箝口令を強いたのだろう。
紳一郎の耳に入らないように…と。
…父を恨む気にはなれなかった。
14歳の息子が男と同衾している場面を見たら、そんな行動に出るのは仕方のないことだろう。
…十市の語り始めた事実は驚くべきものであった。
「…俺が坊ちゃんを抱いた翌朝のことだ…。
旦那様が俺の山小屋に坊ちゃんを探しに来て、俺と坊ちゃんが寝ているところを見てしまったんです」
紳一郎は目を見張り驚く。
「え?父様が?」
紳一郎が目覚めたのは正午近くであった。
もぬけのからのベッドに茫然とし、十市を探し回り、落胆のまま屋敷に戻ると…確かに父、公彦が予定より早く別荘に到着していたのだ。
しかし父に変わった様子はなかった。
翌日も十市は姿を現さなかった。
思いあぐねた挙句、父に十市の不在を尋ねると…
「彼は急に森番を辞めたようだ。行き先は私も知らないな」
と、素っ気ない返事が返ってきたのみであった。
…やはり自分は捨てられたのだ。
十市に嫌われたのだと、紳一郎はそれ以上父に十市の行方を尋ねる気力も失くし、口を噤んだ。
それ以来、父に十市のことを尋ねたことはない。
…その父が…十市に会っていたのか…。
十市は淡々と話を続けた。
「…旦那様は俺を呼び出し、どういうことかと尋ねました。…俺は…坊ちゃんが好きだと答えました。坊ちゃんを愛しているから、抱いたと答えて…殴られました」
「え⁉︎父様が⁈」
公彦は紳士だ。
多少神経質なきらいはあるが、使用人にはいつも丁寧に接する。絶対に手を挙げるような野蛮なことはしない。
…その父が…。
「旦那様が怒るのは無理ない…。俺はしてはならないことをした。子どもで…しかも公爵家の御曹司のあんたを抱いてしまった。殴られて当然だ。
だから俺は旦那様に土下座して詫びた。…詫びた上で、坊ちゃんを愛しているから、側にいさせてくれと頼んだ。…旦那様は尚怒り、俺は解雇された…。
…今すぐ出て行けと。警察には届けない。坊ちゃんの将来に傷が付くからと…。その代わりすぐに出て行き、二度とあんたに会うなときつく言われたんだ」
紳一郎は深いため息を吐いた。
「…そうだったのか…」
…だから父は知らないと言い張り、他の使用人…執事や家政婦、下僕やメイドに至るまで全てに箝口令を強いたのだろう。
紳一郎の耳に入らないように…と。
…父を恨む気にはなれなかった。
14歳の息子が男と同衾している場面を見たら、そんな行動に出るのは仕方のないことだろう。