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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
「…父親…て…」
「公彦さんが貴方の本当の父親ではないことはもうご存知よね?」
公彦が子どもを作ることが出来ない身体で、蘭子とは形だけの夫婦だということは口さがない親戚や社交界の噂雀の口から薄々聞かされていた。
だから今更驚かない。
「…はい」
…父親が誰かだなんてどうだっていいことだ。
今の紳一郎にとって何よりの苦悶は十市が失踪してしまったことだ。
それ以上の哀しみはない。
蕗子はまるでお告げをするシャーマンのように、紳一郎を見据えたまま口を開いた。
「…十市が居なくなったそうね」
息が止まるほどに驚く。
「…なぜそれを…」
蕗子は形の良い紅の唇から紫煙を吐き出しながら、さもないように語り出した。
「公彦さんに聞きましたよ。…貴方、十市と何かあったの?」
…お祖母様は、何を言いだすつもりなんだ。
「…何もないです」
蕗子は可笑しそうに笑う。
「まあ、いいわ。そんなことには興味がないから。…でも貴方ももう14歳…。大人になりつつある年齢よ。だから他人の口から真実が分かるより、私が伝えた方が良いと思って…」
「……」
何かとんでもない事実が暴露されそうで、紳一郎は身構える。
「…貴方の生物学上の父親は、十市の父親よ」
…何を言われたのか暫くは理解ができなかった。
瞬きもせずにただ蕗子を見つめる。
「十市の父親は鷹司家の森番だったの。その森番と蘭子との間に出来た子どもが…貴方よ」
「…嘘だ…!」
思わず叫ぶ。
「そんな嘘を僕が信じるとでも思っているのか⁈」
蕗子は眉ひとつ動かさずに続ける。
「貴方が信じようと信じまいと、これは揺るぎない事実よ。
…鷹司家は代々女系の一族で…しかも身体が弱くて夭折する子どもが多かったの。だから蘭子さんには、強い子どもが生まれるように頑強で精力の強い男の種を受けるように、私が命じたのよ。それで森番の男が選ばれた…十市の父親の毅一はそれはそれは屈強な…野獣のような男だったわ」
蕗子が淫蕩に目を煌かせる。
…お祖母様は、やはり魔女だ。
常軌を逸している。
14歳の孫に白昼語るような話ではない。
混乱する頭の中で、閃いた事実に紳一郎は鳥肌が立つような衝撃を受ける。
…もし、お祖母様が言うように自分が十市の父親の子どもだとすると…自分と十市は…。
「…貴方と十市は腹違いの兄弟なのよ」
決定的な宣告が、魔女の紅い唇から告げられた。
「公彦さんが貴方の本当の父親ではないことはもうご存知よね?」
公彦が子どもを作ることが出来ない身体で、蘭子とは形だけの夫婦だということは口さがない親戚や社交界の噂雀の口から薄々聞かされていた。
だから今更驚かない。
「…はい」
…父親が誰かだなんてどうだっていいことだ。
今の紳一郎にとって何よりの苦悶は十市が失踪してしまったことだ。
それ以上の哀しみはない。
蕗子はまるでお告げをするシャーマンのように、紳一郎を見据えたまま口を開いた。
「…十市が居なくなったそうね」
息が止まるほどに驚く。
「…なぜそれを…」
蕗子は形の良い紅の唇から紫煙を吐き出しながら、さもないように語り出した。
「公彦さんに聞きましたよ。…貴方、十市と何かあったの?」
…お祖母様は、何を言いだすつもりなんだ。
「…何もないです」
蕗子は可笑しそうに笑う。
「まあ、いいわ。そんなことには興味がないから。…でも貴方ももう14歳…。大人になりつつある年齢よ。だから他人の口から真実が分かるより、私が伝えた方が良いと思って…」
「……」
何かとんでもない事実が暴露されそうで、紳一郎は身構える。
「…貴方の生物学上の父親は、十市の父親よ」
…何を言われたのか暫くは理解ができなかった。
瞬きもせずにただ蕗子を見つめる。
「十市の父親は鷹司家の森番だったの。その森番と蘭子との間に出来た子どもが…貴方よ」
「…嘘だ…!」
思わず叫ぶ。
「そんな嘘を僕が信じるとでも思っているのか⁈」
蕗子は眉ひとつ動かさずに続ける。
「貴方が信じようと信じまいと、これは揺るぎない事実よ。
…鷹司家は代々女系の一族で…しかも身体が弱くて夭折する子どもが多かったの。だから蘭子さんには、強い子どもが生まれるように頑強で精力の強い男の種を受けるように、私が命じたのよ。それで森番の男が選ばれた…十市の父親の毅一はそれはそれは屈強な…野獣のような男だったわ」
蕗子が淫蕩に目を煌かせる。
…お祖母様は、やはり魔女だ。
常軌を逸している。
14歳の孫に白昼語るような話ではない。
混乱する頭の中で、閃いた事実に紳一郎は鳥肌が立つような衝撃を受ける。
…もし、お祖母様が言うように自分が十市の父親の子どもだとすると…自分と十市は…。
「…貴方と十市は腹違いの兄弟なのよ」
決定的な宣告が、魔女の紅い唇から告げられた。