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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
十市にじっと見つめられ、14歳の紳一郎に戻ったかのように弱々しく尋ねる。
「…僕の…本当の父親は…十市なのか?」
十市の夜の闇色の瞳が驚いたように見開かれる。
「本当のことを言ってくれ。…ショックを受けたりしないから…。覚悟は出来ているから…」
十市はゆっくりと首を振り、静かに…しかし毅然として答える。
「いいや。違う。坊ちゃんの父親は…俺の親父だ…」
「…で、でも…母様は十市のことが好きだろう?…17年前、十市はもう15歳だ。…母様に誘惑されて…そういうことになったことはないのか…?」
尚も疑う紳一郎の肩に手を置き、言い聞かせるように答える。
「俺は奥様と寝たことはただの一度もない」
「…本当に?」
「ああ。…奥様とは何もない。誓ってもいい。坊ちゃん。俺を信じてくれ」
「…十市…」
「奥様は…俺の親父をとても愛していた。信じられないかもしれないけれど、二人は愛しあっていた。奥様は、あんたを身籠り、親父と駆け落ちしようとした」
「え⁈母様が⁈」
「すぐに大奥様に知れて連れ戻されたが…。親父はその咎で森番を解雇され、姿を消した。いなくなる前日、親父は俺に言った。…産まれてくる子どもはお前の弟か妹だ。俺の代わりに大切に守ってくれ…と。俺はもう子どもの貌も見ることは叶わないから、お前に託すと…」
「…そう…そうだったんだ…」
十市が自分の父親ではないと分かり、全身の力が抜けるくらいに安堵する。
十市は少し切なげな眼をした。
「…奥様が一番愛していたのは俺の親父だったんじゃないかと思う。…親父と添い遂げられなかったから…奥様は未だに愛する誰かを探しているんだ…」
…親父はいい男だったからな。見た目も中身も…と、やや自慢気に微笑む。
「…そう…」
…あの色狂いの母親にそんな過去があったのか…。
自分の父親だという森番を愛していて、そして愛するがゆえに今、愛の彷徨い人のような恋愛を繰り返しているというのか…。
今まで何一つ理解できなかった蘭子をほんの少しだけ身近に感じられたような気がした。
「奥様は…親父に置いて行かれた俺を可愛がってくれた。親父の跡を継いでお屋敷にいられるように大奥様に掛けあってくれた。…俺に構うのは…そういう意味だ」
…まあ、多少行き過ぎなことはあるが…と笑った。
十市の笑顔が眩しくて、紳一郎は泣きそうになる。
「…僕の…本当の父親は…十市なのか?」
十市の夜の闇色の瞳が驚いたように見開かれる。
「本当のことを言ってくれ。…ショックを受けたりしないから…。覚悟は出来ているから…」
十市はゆっくりと首を振り、静かに…しかし毅然として答える。
「いいや。違う。坊ちゃんの父親は…俺の親父だ…」
「…で、でも…母様は十市のことが好きだろう?…17年前、十市はもう15歳だ。…母様に誘惑されて…そういうことになったことはないのか…?」
尚も疑う紳一郎の肩に手を置き、言い聞かせるように答える。
「俺は奥様と寝たことはただの一度もない」
「…本当に?」
「ああ。…奥様とは何もない。誓ってもいい。坊ちゃん。俺を信じてくれ」
「…十市…」
「奥様は…俺の親父をとても愛していた。信じられないかもしれないけれど、二人は愛しあっていた。奥様は、あんたを身籠り、親父と駆け落ちしようとした」
「え⁈母様が⁈」
「すぐに大奥様に知れて連れ戻されたが…。親父はその咎で森番を解雇され、姿を消した。いなくなる前日、親父は俺に言った。…産まれてくる子どもはお前の弟か妹だ。俺の代わりに大切に守ってくれ…と。俺はもう子どもの貌も見ることは叶わないから、お前に託すと…」
「…そう…そうだったんだ…」
十市が自分の父親ではないと分かり、全身の力が抜けるくらいに安堵する。
十市は少し切なげな眼をした。
「…奥様が一番愛していたのは俺の親父だったんじゃないかと思う。…親父と添い遂げられなかったから…奥様は未だに愛する誰かを探しているんだ…」
…親父はいい男だったからな。見た目も中身も…と、やや自慢気に微笑む。
「…そう…」
…あの色狂いの母親にそんな過去があったのか…。
自分の父親だという森番を愛していて、そして愛するがゆえに今、愛の彷徨い人のような恋愛を繰り返しているというのか…。
今まで何一つ理解できなかった蘭子をほんの少しだけ身近に感じられたような気がした。
「奥様は…親父に置いて行かれた俺を可愛がってくれた。親父の跡を継いでお屋敷にいられるように大奥様に掛けあってくれた。…俺に構うのは…そういう意味だ」
…まあ、多少行き過ぎなことはあるが…と笑った。
十市の笑顔が眩しくて、紳一郎は泣きそうになる。