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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
そんな紳一郎を十市の逞しく温かい腕が抱き寄せる。
「…だから安心してくれ。…俺はあんたの父親じゃない」
愛おし気に紳一郎の白い頬を撫でながら、貌を近づける。
十市の日本人離れした精悍な貌が近づき、思わずうっとりと瞼を閉じそうになる。
…が、最後の一つの疑問が頭に閃く。
紳一郎は自分にくちづけしようとする十市を押しとどめ、その彫りの深い瞳を見つめる。

「…あの…。…でも…十市と僕は…腹違いの兄弟なんだよね。…それでも僕はお前が好きだけど…だけど…」
…血が繋がっている兄と愛し合ったこと…。
禁忌に触れている関係だということがやはり解けぬ棘のように紳一郎の胸に突き刺さっているのだ。

十市はまじまじと紳一郎の貌を見つめていたが、ああ…とやや呑気な口調で話し始めた。
「…話していなかったか。…俺は親父とは血が繋がってない」
青天の霹靂のような言葉が十市の口から漏れた。
「…へ⁈」
「俺は亡くなったお袋の連れ子なんだ。船乗りだった親父はカナリア諸島でスペイン人のお袋と知りあった。
その頃、俺は既に生まれていた。お袋はやはり船乗りだった夫を海難事故で亡くしていて、一人で俺を育てていた。二人は恋に落ち結婚し、つてを頼り日本に戻り鷹司家の森番として住み込むことになった。
お袋は日本の風土に慣れずに体調を崩して、俺が三歳の時に亡くなった。…それからは親父が俺を育ててくれた。
…だから俺はスペイン人の母親とギリシア人の父親との間に生まれた子どもなんだ。…貌を見ればわかるだろう?」
「…そ、そうだったのか…」
…確かに十市の彫りの深い貌立ちは混血のそれではなく生粋のラテン系の西洋人のものだ。
意識が遠のくほどの安心感に襲われ、紳一郎はその場に崩れ落ちそうになる。
すかさず、十市ががっしりとした逞しい腕で抱き上げてくれる。
「坊ちゃん…」
力の限り、十市に抱きつく。
「…良かった…。お前と血が繋がっていなくて…良かった…」

…この恋が呪われたものでなくて、良かった…。
…僕が愛のない情事の結晶ではなくて、良かった…。
…母親が愛する人と結ばれた末の子どもで、良かった…。
…十市にまた巡り会えて、良かった…。
…十市に愛されていて、良かった…。

様々な安堵が胸に溢れすぎて、紳一郎は静かに啜り泣いた。
十市は全てを受け入れ、全てを包み込むように紳一郎を強く抱きしめた。


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