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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
十市は苦しげに…やや苛立ったように答える。
「…坊ちゃんはすごく綺麗だし、賢いし、上品だし…誰だってあんたを好きになるだろう。
学校もいいところのボンボンだらけだし…。
…だから…三年間もあんたに言い寄るやつが誰もいなかったとは思えない。…俺がやきもちを焼く資格はないけど…でも…」
「…寝たと思うのか?」
十市の逞しい胸に抱かれたまま、白い指をその長い巻き毛に伸ばす。
「僕がお前を愛しているのに、他の男に抱かれると思うのか?」
生真面目な貌をして十市は首を振る。
「…思わないけど…」
少し不機嫌な眼差しで男を見上げる。
「…お前は分かってない。僕がどれだけお前を愛しているか…。この三年間、ずっと孤独で寂しかったか…全く分かっていない…」
不意に頼りなげな子どものような表情になる。
「坊ちゃん!…すまない…」
筋肉質な褐色の腕に強く抱かれる。
「…いないよ。誰も…。遊びの相手とキスくらいはしたけれど…それだけだ。お前を忘れることができなかったから…」
十市の彫りの深い精悍な貌が喜びに輝く。
少し意地悪したくなった紳一郎は十市からそっぽを向き、つっけんどんな口調で尋ねた。
「…僕よりお前は…?こんなバーで働いているんだ。さぞかし女にもてただろうな」
「もてないさ」
「嘘をつけ。屋敷にいる時だってメイド達や有閑マダム達がいつもお前に色目を使ってきた。…今回だって…」
背後から温かく筋肉質な腕が紳一郎を抱きすくめる。
「…誰とも寝てない」
「嘘だ」
「誰とも寝てない。…あんたを思いながら一人でしていた。このベッドで」
急に恥ずかしくなり、白い首筋を染めながら俯く。
「…うそ…」
「本当だ。俺が抱きたいのは、あんたしかいなかったから…」
…嬉しい。嬉しくて涙が出そうになるのをぐっと堪える。
気恥ずかしくてわざとつんと十市に命令する。
「…そのジャケットを取ってくれ」
「…ジャケット?」
床に落ちている紳一郎の制服のジャケットを十市は渡す。
紳一郎は胸ポケットから光る銀の指輪を取り出し、十市に渡す。
「これは、どういう指輪なんだ?」
受け取りながら黒い闇の色をした瞳を見開く。
「…これは…!」
懐かしそうに指輪を撫でる。
「…俺が造った指輪だ」
紳一郎は驚き、十市を見上げる。
「お前が⁈」
「…ああ。そうだ。…懐かしい…」
ランプの灯りに透かすように、指輪を翳す。



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