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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第5章 緑に睡る
「…金を貯めて銀を買って、知り合いの鋳物工場で打たせてもらって俺が作った。
…あんたの…名前を彫った…」
…やっぱり…と紳一郎は腑に落ちた。
「しんいちろうさま、あいするひと…」
十市の低い、ややハスキーな声が歌うように読み上げる。
綺麗な横顔だな…と思わず見惚れていると、十市と目が合った。
どきどきする紳一郎を優しく見つめ返す。
「…あんたが大人になって、いつか告白する時に渡したかった…」
「…十市…」
十市は紳一郎を起き上がらせると、大切そうに手を握りしめた。
黒い瞳に吸い込まれそうだ。
「俺は学もないし、地位も名誉もない。あんたに贅沢をさせることはできないし、あんたの願いを叶えてあげられるか、分からない。…だけど俺はあんたが好きだ。愛している。だから、ずっと一緒にいてくれ」
紳一郎の白い頬に透明な涙が溢れ落ちる。
「…バカ…。僕の願いがなんだか知っているのか?僕の願いは、お前と一緒にいることだけだ」
「…坊ちゃん…」
「鈍感なんだから!」
照れ隠しに膨れる紳一郎の涙を優しく拭う。
「…指輪、嵌めてよ」
差し出す白い指にごつごつした十市の手がぎこちなく銀の指輪を嵌める。
…が…。
「…大きい!」
紳一郎の指がか細すぎて指輪はぶかぶかだった。
「…え⁈」
見る見る間に落胆する十市が可愛くて、紳一郎はくすくす笑いながら指輪を人差し指に嵌めた。
「ほら、大丈夫。ぴったりだ!」
「…坊ちゃん…」
紳一郎は十市のがっしりとした首筋に抱きつく。
「ありがとう。十市。大切にするよ。一生…」
「…坊ちゃん…」
唇を寄せる十市を止めて、大切なことを聞く。
「ねえ、十市のスパニッシュネームは?あるんだろう?」
十市は眉を上げて、戸惑ったように頷く。
「…ああ…一応…」
「なんて言う名前?」
「ビセンテだ。ビセンテ・アルバロ・十市…」
紳一郎はうっとりしたように目を細める。
「…ビセンテ…。いい名前だね」
十市は照れたように肩を竦める。
「俺は十市の方が好きだ。…十市は親父がつけてくれた。親父の名前が毅市だから、一字くれたんだ」
嬉しそうに微笑む十市を見つめる。
…自分の父親だという男…。
男らしく優しい人間だったらしい事実が嬉しい。
…生きていてくれたらいいな…。
会えなくてもいいから、生きていて…幸せに暮らしていてくれたら…それでいい…。
紳一郎はそっと願った。
…あんたの…名前を彫った…」
…やっぱり…と紳一郎は腑に落ちた。
「しんいちろうさま、あいするひと…」
十市の低い、ややハスキーな声が歌うように読み上げる。
綺麗な横顔だな…と思わず見惚れていると、十市と目が合った。
どきどきする紳一郎を優しく見つめ返す。
「…あんたが大人になって、いつか告白する時に渡したかった…」
「…十市…」
十市は紳一郎を起き上がらせると、大切そうに手を握りしめた。
黒い瞳に吸い込まれそうだ。
「俺は学もないし、地位も名誉もない。あんたに贅沢をさせることはできないし、あんたの願いを叶えてあげられるか、分からない。…だけど俺はあんたが好きだ。愛している。だから、ずっと一緒にいてくれ」
紳一郎の白い頬に透明な涙が溢れ落ちる。
「…バカ…。僕の願いがなんだか知っているのか?僕の願いは、お前と一緒にいることだけだ」
「…坊ちゃん…」
「鈍感なんだから!」
照れ隠しに膨れる紳一郎の涙を優しく拭う。
「…指輪、嵌めてよ」
差し出す白い指にごつごつした十市の手がぎこちなく銀の指輪を嵌める。
…が…。
「…大きい!」
紳一郎の指がか細すぎて指輪はぶかぶかだった。
「…え⁈」
見る見る間に落胆する十市が可愛くて、紳一郎はくすくす笑いながら指輪を人差し指に嵌めた。
「ほら、大丈夫。ぴったりだ!」
「…坊ちゃん…」
紳一郎は十市のがっしりとした首筋に抱きつく。
「ありがとう。十市。大切にするよ。一生…」
「…坊ちゃん…」
唇を寄せる十市を止めて、大切なことを聞く。
「ねえ、十市のスパニッシュネームは?あるんだろう?」
十市は眉を上げて、戸惑ったように頷く。
「…ああ…一応…」
「なんて言う名前?」
「ビセンテだ。ビセンテ・アルバロ・十市…」
紳一郎はうっとりしたように目を細める。
「…ビセンテ…。いい名前だね」
十市は照れたように肩を竦める。
「俺は十市の方が好きだ。…十市は親父がつけてくれた。親父の名前が毅市だから、一字くれたんだ」
嬉しそうに微笑む十市を見つめる。
…自分の父親だという男…。
男らしく優しい人間だったらしい事実が嬉しい。
…生きていてくれたらいいな…。
会えなくてもいいから、生きていて…幸せに暮らしていてくれたら…それでいい…。
紳一郎はそっと願った。