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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
「眺めの良い部屋だね。綺麗な庭園が一望だ。今は冬だけど春はいろんな花が咲いて見事なんだろうな…」
司は案内された部屋に入るとすぐに、バルコニーに面した窓を開け放った。

部屋まで彼を案内をした泉は、メイドに荷物の荷解きの指示を終えると背後に控えながら、静かに答える。
「こちらは東翼で特に陽当たりも良く広いお部屋でございます。専用バスルームが付いておりますので、奥様が司様に是非にと…」
ゆっくりと司が振り返る。
冬の陽の光に照らされたその貌は華やかな目鼻立ちがくっきりと浮かび上がり、泉を驚かせるのに充分なものだった。
陽に当たると司の髪はさらに明るい栗色のように見えた。
外国育ちだと髪色も変わるのだろうかと、泉はふと考えた。
にっこりと笑うと端正な美貌が人懐こいものに変わる。
「マダム・アガタはご親切だね。…ムッシュー・アガタもとても良い方だし…こちらにお世話になれて良かったよ」
屈託の無い性格が言葉に表れている。
泉はつられて微笑んだ。
「ありがとうございます。旦那様も奥様もとてもお優しい方です」
「美男美女でお似合いのご夫婦だね。パリの社交界でもアガタ夫妻の評判は上々だよ。…何しろドラマチックな略奪婚だものね」
悪戯っぽくウィンクする司に苦笑してみせる。
使用人の立場では肯定も否定も出来ない。

「薫くんは…少し我儘なのかな?小さな妹を泣かせるのはあまり感心しないな」
司は妹の瑠璃子を泣かせたことはない。
年が離れているせいもあるが、妹が可愛くて仕方ないからだ。

薫を批判され、泉は少し硬い表情になる。
「…いえ。薫様はとてもお優しいご性格です。少しやんちゃでいらっしゃるので時には菫様と喧嘩されることはありますが…」
ふふ…と目を細め、司が小さく笑う。
「君は薫くん贔屓なのかな」
「…薫様は私がこちらに勤めた年にお生まれになって…それ以来ずっとお世話させていただいております。…厚かましい言い方をすれば、我が子のような存在です」
「それは素晴らしい。…忠義と献身は何よりの美徳だ。…しかも君のようなハンサムな執事に傅かれるなんて…薫くんは幸せ者だね。実に羨ましいよ」
司の整った貌がぐっと近づけられる。
外国製のトワレの香りが鼻先を掠め、泉は思わずどきりとする。
「…お戯れを…」
身を引いて形勢を立て直す。
…まだ18歳の若者じゃないか。
何をどぎまぎしているんだ。
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