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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
司は可笑しそうに笑う。
そして薄茶色の蠱惑的な猫のような眼差しで泉を見上げた。
「そういえばさ、暁さんはどうしてこちらに住んでいらっしゃらないの?お家を出られたと伺ったから、てっきりご結婚かと思ったらそうじゃないみたいだし…」
痛いところを突かれ、泉は押し黙る。
「…でも、左手の薬指に指輪をされていたよね?」
「……」
「パリではされていなかったよ」
「……」
「…もしかして…」
司の形の良い唇が動く前に泉は口を開いた。
「…あの、失礼ながら申し上げます。…あまり他人の私生活を詮索されるのはいかがなものかと…」
二重の大きな瞳が見開かれる。
そしてにやりと笑うと少しも機嫌を損ねていない明るい口調で尋ねた。
「…君、暁さんを好きなの?」
「なっ…⁉︎な、何を仰るのですか⁈」
「図星か。…別にいいじゃない?フランスでは同性愛なんて珍しくないよ。イギリスで迫害されたグリーンカーネーションの文学者や芸術家達が大勢海を渡って来ている。
皆、古い因習や下らないナンセンスな倫理から解き放たれて自由に愛し合っている…」

厳しい表情を浮かべた泉は毅然と言い放つ。
「ここは日本です。開かれた欧州とは違います。…ましてや暁様は縣男爵家の方…。たとえ噂でもそのような不謹慎なことが流布しましたら暁様のお名前に傷がつきます。私は構いません。しかし、暁様は…」
司は両手を前に出し、泉を制する。
「分かったよ。君は忠誠心の厚い騎士みたいな男だな。…これ以上は詮索しない」

そうして屈託のない笑顔を浮かべると、こう切り出したのだ。
「…ねえ、泉。行きたいところがあるんだ。道案内してくれ」


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