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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
縣家の晩餐会は和やかに進んでいた。
招待客も大紋一家、北白川伯爵家の二人令嬢と極内輪の顔触れだった為に、司も始終リラックスして会話と食事を楽しめているようだ。

泉は日中の出来事の行く末が気になりつつも、今夜は実はもうひとつ気掛かりがあったのだ。

「司くんは日本は久しぶりなのかな?」
鶉のローストを器用に切り分けながら大紋が尋ねる。
相変わらず成熟した大人の風格を感じさせる魅力に満ちている。
「3年ぶりです。風間の祖父母からはもっと度々貌を見せてくれと言われているのですが…」
人好きする笑顔で答える司も、フランス仕立ての正装が良く似合っている。
ジャケットのボタンホールにさりげなく白い薔薇を飾っているのが、如何にも洒落ていて司のパリ育ちを現していた。

司の祖父母はもともと、母親の百合子を打算の為に実家に戻す企みに加担していたのだが、孫の司は溺愛と言っても良いほどに可愛がっていた。
今では手紙のやり取りをするほど態度も軟化しているし、司だけでも帰国できないかと恋しがるほどであった。
忍たち家族との全面的な和解もそう遠いことではなさそうだ。
「…風間の祖父母は僕に日本の事業を継いで欲しいらしいのです」
礼也がブルゴーニュ産の赤ワインを口に運びながらやや同情めいた口調で話し始める。
「先日夜会で風間ご夫妻とお目にかかったが、大分お年を召された様子だったよ。…可愛いお孫さんの君に跡を継いでもらい安心して引退したいのかもしれないな…」
「忍さんはもう日本にお帰りになる気はないのかしら?」
鮮やかなトルコブルーのイブニングドレスに身を包んだ光が尋ねる。
「父はパリが水に合っていると申します。拡大したホテル事業も今、伸び盛りですし…それに…」
一見遊び人の伊達男だが、父は母を一筋に愛している。
「…日本に帰ると母の身に危険が及ばないか、まだ心配しているようです」
実家の継母の計略で意に染まぬ再婚をさせられそうになった百合子を守る為に司と一緒にフランスに渡った忍にとって百合子の安全が第一だからだ。
暁がしみじみと微笑んだ。
「忍さんらしいな。…百合子さんは幸せだね。忍さんに心底愛されて…」
とても三十路を半ば超えた男性と思えぬほどに透明感のある美しさを保つ暁に司は思わず見惚れた。

すると光が少し改まったような…しかしテーブルの和やかな雰囲気を壊さぬように口を開いた。



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