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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
夜半前、主人を迎えに縣男爵家に着いた月城は玄関ホールに入るなり、奥の広間から駆け出して来た暁に眼を見張った。
「月城!」
暁は美しい貌をきらきらと輝かせて、月城に抱きついた。
「暁様…。どうされたのですか?」
月城は周りを見回し、さりげなく身を引こうとした。
…いくら今夜は内々の晩餐とは言え、大紋夫妻や司、そして使用人達の眼がある。
自分との仲が知れ、暁の名前を穢すわけにはいかない。

「…いいんだ、もう…」
「え?」
「…もう、この家では君とのことを秘密にしなくていいんだ…。兄さんが…君をクリスマスイブの晩餐に招待してくれた。僕と一緒に出席して欲しい…て…」
黒目勝ちな美しい瞳が涙で潤んでいる。
「…縣様が?…しかし…」
戸惑いながら、次の言葉を探していた月城に、穏やかな声が掛かった。

「是非、来てくれ給え。…辞退は許さんぞ。そんなことをしたら、今度こそ暁は返してもらう」
玄関ホールの中央に礼也が佇んでいた。
彼はにやりと笑いながら、こちらに近づく。
「…縣様…!」
悪戯めいた笑顔はふとなりを潜め、真摯な…しかし温かい表情に変わる。
「…長い間、待たせてしまいすまなかったね。全ては私の子どもじみた嫉妬心からだ」
礼也の手が暁の肩を抱く。
「…いいえ。…いいえ、兄さん…」
暁ははらはらと涙を零しながら首を振る。

「…縣様…。私はこのままで充分幸せです。暁様と共に生きてゆくことをお許しいただけただけで法外な幸せなのです。…その上、そのような…」
礼也の大きな温かな手が、月城のひんやりとした美しい手と暁の白く華奢な手を重ね合わせる。
礼也の精悍な眼差しが月城を見つめる。
「…月城。君は私たちの家族だ。大切なイブには大切な家族達と過ごしたい。是非、暁とともに出席してくれ」
月城は込み上げる熱い想いに怜悧な美貌を歪ませる。
「…ありがとうございます。喜んでお伺いいたします」
「月城…!」
暁が堪らずに月城の胸に飛び込む。

二人の熱い抱擁に眉を上げ、肩を竦めて朗らかに笑ってみせる。
「梨央さんも綾香さんもまだサロンで光さんとお喋りに夢中だ。…二人とも小客間でゆっくりしてゆきなさい。温かい珈琲を運ばせよう」

美しい背中を見せながら颯爽と去る礼也に、暁は叫ぶ。
「…兄さん…!ありがとう…」
礼也は振り返らずに優雅に片手を挙げ、そのまま広間へと消えて行ったのだった。
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