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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
…やはりフランスは自由恋愛の国なのだな。
家庭教師と高校生が付き合うなど…言語道断ではないか。
こんな自由奔放な青年がいては薫様の教育にも良くないのではないか…?
泉は眉を顰める。
司の無邪気な瞳と目が合う。
「…で、その方はなぜ日本に帰国されたのですか?」
「うん。お父様が株で大損して事業を畳むことになったから、仕送りが止められてしまったんだ。それでソルボンヌで学業が続けられなくなって、帰国したんだ」
…真紀に帰国を告げられたあの日、寂しくて司は泣いた。
駄々も捏ねた。
真紀は司を抱きしめると、優しく囁いてくれた。
「泣かないでくれ、司。君に泣かれると辛い。…俺は日本で立派な医師になるよ。そして君を迎えに行く」
司は感極まって更に泣きじゃくった。
「約束だよ。必ず、帰ってきて。真紀」
司は返事の代わりに熱いくちづけをくれた…。

うっとりと反芻していると、どこか冷ややかな眼差しをした泉に気づく。
「ではなぜ司様が日本へ?」
「待ちきれなかったからだよ!だって真紀がドクターになるまで、後何年もかかるんだよ!…だから僕から会いに来たんだ。日本の大学に留学したいってお父様やお母様を説得して…。フフ…僕はオウガイの舞姫みたいなものかな…」
泉は溜息を吐く。
「…何が舞姫ですか…。風間様はご存知なのですか?…貴方と…その真紀様が恋人関係で、彼を追いかけて日本に来たことを」
司はあっけらかんと答える。
「知らないよ。いくら博愛主義者のお父様でも諸手を挙げて賛成してくれるとは思えないしね。両親は僕が日本の大学で日本美術の勉強をしたくて留学したんだって信じている」

…これだから、お坊っちゃまは…!
何の罪の意識もなく親を騙し、高い留学費用を払わせ、帰国したのか。恋人に会うために!
屈託ない司の説明に、泉は思わず苛立った。

つい皮肉めいた言葉を吐いてしまう。
「…それにしては、貴方の恋人は貴方にお会いした時、随分冷淡でいらっしゃいましたね…?」
…だって本当じゃないか。あの医学生は明らかに司を見て狼狽していた。

司は初めてむっと美しい貌を曇らせた。
「…それは…僕が急に帰国したからだよ。真紀は知らなかったから驚いたんだ」
泉は形の良い唇を歪めて笑う。
「恋人に久しぶりに会えたのに?…あんなに迷惑そうな貌をなさいますかね…」
司は美しい眉を顰めた。
「君は何が言いたいの?」

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