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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
「…いえ。別に…。ただ…貴方様のようにお若いお方の恋愛など続いたほうが奇跡なのですから…あまり期待をお持ちにならないように…と老婆心ながら思ってしまいまして…」
整った貌に形式的な微笑を浮かべ、慇懃だがどこか嫌味があるような泉の言葉に司は頬を膨らます。
「何、その嫌な言い方!…君ってさ、さっきから何だか僕に意地悪じゃない?」
「…やっと気づかれましたか…」
ふっと苦笑いしながら首を振る。
「へ⁈」
泉は暖炉の火加減を確認すると、姿勢を伸ばし司を見つめ、静かに話しかけた。

「…私は貴方様のような甘ったれたお坊っちゃまが好きではありません」
「…な⁈」
司が目を吊り上げる。
一歩脚を進め、その舶来の砂糖菓子のように華やかで品の良い貌に近づく。
「貴方様みたいに何の不自由もなくお育ちになり、ご両親に愛され、最高の教育を受けられ、贅沢品に囲まれ身につけそれが当たり前だと思っている…ご自分の今の恵まれた幸せを疑おうともしない…そんな無邪気に傲慢な方が好きではありません」
司は思わず立ち上がり、泉に詰め寄る。
「ちょっと、君!失礼すぎ…」
泉の白手袋に包まれた手が司の白く形の良い顎を捉える。
泉の声が甘く変わる。
「…まるで絵画から抜け出して来たような美しいお貌だ…。パリでお育ちになるとこんなにも華やかな美貌になられるのでしょうか…」

…誰かに似ている…。
誰だったか…。
司の薄茶色の虹彩を見つめ、ふっと底意地悪く笑う。
「…このお美しいお貌でその医学生の方を繋ぎ止めておかれますように、心よりお祈りいたします」
目を丸くして驚く司からすっと離れると、胸に手を当て優雅に一礼する。
「…数々の無礼を申し上げましたが、私は司様に誠心誠意を持ってお仕えいたします。
何かございましたら何なりとお申し付け下さいませ。
…では、おやすみなさいませ」

呆気に取られたままの司に背を向け、部屋を辞する。
廊下を歩きかけた時に扉に何かぶつかる音がした。
「誰がお前なんかに用を頼むか!ちょっとハンサムだからってカッコつけちゃって!バーカバーカ!お前の母ちゃんデベソ‼︎」

子どものような悪口が聞こえ、泉は思わずくすくすと笑いだす。
「…どこで覚えられたのやら…」
扉を振り返りそう呟き、楽しげな微笑みを浮かべながら廊下を歩き始めたのだった。

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