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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
「…今年の縣家のクリスマスイブは華やかで賑やかになりそうだな」
縣家からの帰り道の車内で、大紋はしみじみと呟いた。
隣に座る絢子が、小さな声で遠慮勝ちに口を開く。
「…あの…。暁様と月城さんは…その…」
大紋の涼やかな眼差しが穏やかに絢子を見下ろす。
「…深く愛し合っているよ。もう12年になる…」
絢子は息を呑み、その後に深く息を吐いた。
「…そうだったのですね…。…私、何も存じ上げなくて…暁様にとても失礼なことを…」
この夏に暁に縁談話を切り出したことだろう。
大紋は恐縮する妻の白く小さな手を優しく握り締めた。
「2人の関係はごく限られた人々しか知らない。気にしなくていい…」
…それより…と、大紋はロンジンの腕時計をちらりと見る。
「…まだ宵の口だ。…これから三井倶楽部で軽く飲まないか?」
絢子が驚きに眼を見張る。
「…私と…ですか?」
…夫に外のバーに誘われたのは初めてだったのだ。
大紋が可笑しそうに笑う。
「君以外に誰がいる?…たまにはいいだろう。…君は箱入り娘だったから、夜の社交場に連れてゆくのは気が引けていたんだ」
夫の大きな手が、絢子の白く艶やかな頬をそっと撫でる。
絢子は頬を上気させ、恥らう。
「…でも…暁人さんもいますし…早く寝かさなくては…」
助手席に座っていた暁人がくるりと振り返り、満面の笑みで答える。
「お父様、僕も行ってみたいです!」
絢子が慌てて止める。
「子どもはいけません。…春馬様、もう遅いですし…」
「いいじゃないか。明日は学校も休みだし、両親同伴なら問題ない。これも立派な社会見学さ。
…暁人、お前はジンジャエールかシードルだ。いいな?」
大紋は悪戯めいた目配せをする。
「はい、お父様!」

大紋は運転手に告げる。
「行き先変更だ。三井倶楽部に行ってくれ」
「かしこまりました」

「…春馬様…」
戸惑うように夫を見上げる絢子を優しく抱き寄せ、その白い額に慈愛を込めてキスをする。
「…倶楽部に着いたら、踊っていただけますか?私の可愛い奥様…」
潤んだ瞳が大紋を見上げ、泣き笑いの表情で頷いた。
「…はい…。…喜んで…」

暁人は二人の様子をバックミラー越しにそっと見つめ、やがて嬉しそうに微笑んだ。



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