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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
司は大学に登校する支度を終えると、大階段を降りた。
「…あ…」
玄関ホールのエントランスに佇んでいた泉と眼が合う。
…こいつには会わないで出掛けるつもりだったのに…。
司は心の中で毒づく。
泉はそんな司の心の中など見透かしたかのように口元だけで笑い、司の姿をじっと見つめた。
「…素敵なお洋服ですね。良くお似合いです」
ペールブルーのシャツにミルクのように白いセーター、カフェ・オ・レ色のパンツ、カシミアのブルーグレーのガウンタイプのコート、背中にはチョコレート色の牛革のランドセル型のリュックというスタイルの司ににこやかに笑いかける。
爽やかな人たらしの笑顔にプイと貌を背ける。
「…どうせ軽薄などら息子がちゃらちゃらして…て思っているんだろう?」
「いいえ。私のような庶民でも本当に美しいものは分かります。…司様には綺麗なものが良くお似合いです」
意外なほどに真摯な眼差しと眼が合う。
司はどきりとし、慌てて眼を逸らす。
「…あ、そ…」
無愛想に泉の前を通り過ぎる。
「司様、車をお使い下さい。運転手には申し送りしてあります」
背後から声が掛かる。
司は振り返りもせずに首を振る。
「大丈夫。タクシーを拾うし、あとは歩くよ」
笑いを噛み殺した声が聞こえた。
「司様は酷い方向音痴でいらした。…車をお使い下さい。初日早々、東京で迷子になられたら私が奥様に申し開きができません」
司は貌を真っ赤にして憤慨する。
「ばっ…馬鹿にしているのか⁈君は!」
「いいえ。心配しているのです」
満更嘘でも無さげな真顔に司は押し黙る。
「車をお使い下さい。さあ…」
泉に促され、渋々車寄せに止まっているメルセデスに乗り込む。
運転手の前田がにこにこと振り返る。
「司様。大学は…どちらでしたっけ?」
司はそっと囁く。
「…本郷にいってくれ」
いきなり窓から泉が貌を覗かせる。
「前田さん。四谷の上智大学にお送りしてください。司様のお帰り時間も伺ってお迎えもお願いします」
司はむっとして泉を上目遣いで睨む。
泉がにっこりと笑い、諭すように言った。
「…学校をさぼってはいけませんよ」
車が滑らかに走り始める。
司は窓越しに栗鼠のように頬を膨らませて見せた。
泉は片眉を上げにやりと笑い、優雅に胸に手を当て深々と一礼をした。
「…あ…」
玄関ホールのエントランスに佇んでいた泉と眼が合う。
…こいつには会わないで出掛けるつもりだったのに…。
司は心の中で毒づく。
泉はそんな司の心の中など見透かしたかのように口元だけで笑い、司の姿をじっと見つめた。
「…素敵なお洋服ですね。良くお似合いです」
ペールブルーのシャツにミルクのように白いセーター、カフェ・オ・レ色のパンツ、カシミアのブルーグレーのガウンタイプのコート、背中にはチョコレート色の牛革のランドセル型のリュックというスタイルの司ににこやかに笑いかける。
爽やかな人たらしの笑顔にプイと貌を背ける。
「…どうせ軽薄などら息子がちゃらちゃらして…て思っているんだろう?」
「いいえ。私のような庶民でも本当に美しいものは分かります。…司様には綺麗なものが良くお似合いです」
意外なほどに真摯な眼差しと眼が合う。
司はどきりとし、慌てて眼を逸らす。
「…あ、そ…」
無愛想に泉の前を通り過ぎる。
「司様、車をお使い下さい。運転手には申し送りしてあります」
背後から声が掛かる。
司は振り返りもせずに首を振る。
「大丈夫。タクシーを拾うし、あとは歩くよ」
笑いを噛み殺した声が聞こえた。
「司様は酷い方向音痴でいらした。…車をお使い下さい。初日早々、東京で迷子になられたら私が奥様に申し開きができません」
司は貌を真っ赤にして憤慨する。
「ばっ…馬鹿にしているのか⁈君は!」
「いいえ。心配しているのです」
満更嘘でも無さげな真顔に司は押し黙る。
「車をお使い下さい。さあ…」
泉に促され、渋々車寄せに止まっているメルセデスに乗り込む。
運転手の前田がにこにこと振り返る。
「司様。大学は…どちらでしたっけ?」
司はそっと囁く。
「…本郷にいってくれ」
いきなり窓から泉が貌を覗かせる。
「前田さん。四谷の上智大学にお送りしてください。司様のお帰り時間も伺ってお迎えもお願いします」
司はむっとして泉を上目遣いで睨む。
泉がにっこりと笑い、諭すように言った。
「…学校をさぼってはいけませんよ」
車が滑らかに走り始める。
司は窓越しに栗鼠のように頬を膨らませて見せた。
泉は片眉を上げにやりと笑い、優雅に胸に手を当て深々と一礼をした。