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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
新條真紀は研究棟から出るなり、向かい側の銀杏並木から駆け寄ってきた司に一瞬たじろいだ。
冬空が晴れ渡る透明な空気の中、司は欧州のファッション雑誌から抜け出てきたような洗練された服装を纏い、華やかな美貌に満面の笑みを浮かべて真紀の前に立った。
授業や研究を終え、次々に学生が昇降口から吐き出される。
そんな中、明らかに医学生ではなくいかにもブルジョア階級のお坊っちゃま然とした司は、皆の注目を否が応でも集めた。
「…司…」
「真紀!…どうしても会いたくて…来ちゃった…」
息を弾ませ、少し遠慮勝ちに弁解する司に、真紀は苦笑する。
「学校は?今日から行くって言っていただろう?」
「…うん。…でも、真紀の貌が見たくて…貌を見たら…すぐに行くよ…」
薄茶色の瞳が熱く切なげに真紀を見上げる。

真紀は、ふっと息を吐くと司の耳元で囁く。
「…貌を見るだけでいいの?」
「…え…?」
「…俺が欲しくないのか?」
やや傲慢な物言いに司の胸は甘く疼く。
俯いて首を振る。
…本当は…ずっと真紀が欲しかった…。
パリで別れてからずっと…。
真紀に抱かれたくて、熱く火照る身体を切なく持て余していた…。

司の心を見透かしたように、桜貝のように可憐な色をした耳朶に艶めかしく囁く。
「…俺もだ…」
力強く肩を抱かれる。
「…おいで。…俺の下宿に案内するよ」
司の長い睫毛が切なげに震える。
「…真紀…」
「ホテル・カザマみたいに綺麗じゃないけどな…」
嬉しさと気恥ずかしさに白い頬を染めながら首を振る。
真紀は冷淡な印象を与える端正な貌に、薄く笑みを浮かべる。
「…いい子だ。…おいで…」
司はやや強引に真紀に腕を引かれ、そのまま構内を後にした。

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