この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
真紀が案内してくれた定食屋は古びて狭かったけれど、帝大生と思しき若い学生達で溢れ活気付いていた。
真紀の友人達も何人かいたようで、親しげに挨拶を交わしていた。
庶民的な店に似つかわしくない華やかな服装と容姿の司を物珍し気に眺める友人に
「パリに留学していた時に家庭教師をしていた生徒だよ」
と司をさらりと紹介した。
…生徒…。
そりゃそうだけど…。
少し寂しい気持ちが胸をよぎる。
「はい!お待たせ!」
太った店の女将が元気に二人の目の前にとんかつ定食の皿を置く。
…ポークシュニッツェルより分厚く、きつね色の衣はじゅうじゅうと美味しそうな音を立ている。
じっととんかつを見つめる司に、真紀は兄のように世話を焼く。
「ほら、司。箸は使えるか?」
箸を差し出され、慌てて受け取る。
「う、うん。日本に来る前に練習した」
「そうか。偉いな。…ほら、このソースと辛子を付けて食べてごらん」
ぎこちなく箸を使い、とんかつを一切れ口に運ぶ。
香ばしく揚がった熱々の豚肉は甘くさくさくしていて、ボリュームがあるのに意外にさっぱりとしている。
甘辛いソースとピリッとした辛子が良く合う。
「…美味しい!ポークシュニッツェルより美味しい!」
目を輝かせる司を真紀は優しく…どこかしみじみした眼差しで見つめた。
「…良かったな…。たくさん食べなさい」
目が合うと、端正な瞳で笑いかけてくれた。
「…司は細すぎる。もっと太った方がいい」
…そんなさりげなく優しい言葉を掛けてくれる様は以前の真紀と少しも変わらなかった。
「…う、うん…」
司の胸の中がふんわりと温かくなる。
…やっぱり真紀は優しい…。
昔と変わらない。
真紀は僕の真紀のままだ…。
…少し変わったなんて…僕の勘違いだったんだ…。
司は自分に言い聞かせるように、その言葉を胸の内でそっと繰り返したのだった。
真紀の友人達も何人かいたようで、親しげに挨拶を交わしていた。
庶民的な店に似つかわしくない華やかな服装と容姿の司を物珍し気に眺める友人に
「パリに留学していた時に家庭教師をしていた生徒だよ」
と司をさらりと紹介した。
…生徒…。
そりゃそうだけど…。
少し寂しい気持ちが胸をよぎる。
「はい!お待たせ!」
太った店の女将が元気に二人の目の前にとんかつ定食の皿を置く。
…ポークシュニッツェルより分厚く、きつね色の衣はじゅうじゅうと美味しそうな音を立ている。
じっととんかつを見つめる司に、真紀は兄のように世話を焼く。
「ほら、司。箸は使えるか?」
箸を差し出され、慌てて受け取る。
「う、うん。日本に来る前に練習した」
「そうか。偉いな。…ほら、このソースと辛子を付けて食べてごらん」
ぎこちなく箸を使い、とんかつを一切れ口に運ぶ。
香ばしく揚がった熱々の豚肉は甘くさくさくしていて、ボリュームがあるのに意外にさっぱりとしている。
甘辛いソースとピリッとした辛子が良く合う。
「…美味しい!ポークシュニッツェルより美味しい!」
目を輝かせる司を真紀は優しく…どこかしみじみした眼差しで見つめた。
「…良かったな…。たくさん食べなさい」
目が合うと、端正な瞳で笑いかけてくれた。
「…司は細すぎる。もっと太った方がいい」
…そんなさりげなく優しい言葉を掛けてくれる様は以前の真紀と少しも変わらなかった。
「…う、うん…」
司の胸の中がふんわりと温かくなる。
…やっぱり真紀は優しい…。
昔と変わらない。
真紀は僕の真紀のままだ…。
…少し変わったなんて…僕の勘違いだったんだ…。
司は自分に言い聞かせるように、その言葉を胸の内でそっと繰り返したのだった。