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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
これから家庭教師のアルバイトがあるという真紀と店の前で別れる。

すらりと背の高い美しい男の後ろ姿をうっとり見送る。
…やっぱり、真紀はかっこいいなあ…。
苦学生には見えない凜とした気高い雰囲気や風貌…。
やっぱり、真紀が大好きだと司は再確認する。
不意に木枯らしが吹き、司は思わずコートの襟を掻き合わせる。
…と、うなじがつきりと痛んだ。

情事の最中に真紀に噛まれたところだ。
司はそっとうなじに手を遣り、頬を赤らめる。
司の身体を知り尽くしている真紀は、快楽を引き出すのも上手い。
16歳で真紀に身体を奪われてから、司は彼以外の男も、もちろん女も知らない。

真紀が好きなように司の身体を作り上げてきた。
最初は後孔を使う性交は痛がってできなかった司をゆっくり辛抱強く慣らし、受け入れられるようにした。
今では、それなしでは快楽を得られなくなったほどだ。

だから司にとって真紀は刷り込みの親鳥のように特別な存在だった。
…真紀にまた会えて良かった…。
やっぱり、彼と離れてなんて生きてゆけない…。

今日は時間がなくてじっくり話しができなかったけれど、今度はちゃんと話そう…。
自分がこれからも真紀と生きてゆきたいと思っていることを…。
…できれば一緒に暮らしたいと思っていることも…。
だって…僕と真紀は恋人同士なんだから…。


前向きに考えて、司の貌は明るくなる。
「…さあ、帰るかな…。もう陽が暮れて来たし…」
歩き出して、はたと脚が止まる。

「…あれ…ここ…どこ?」
真紀に連れてこられたから、道なんて覚えていなかった。

司は愕然として、見知らぬ道の真ん中で立ち竦む。
「…どうしよう!迷子になった‼︎」

…その時、頭の中にある皮肉めいた声が響いた。
「…司様は酷い方向音痴でいらっしゃるから…」
…泉!

「ほ、方向音痴なんかじゃないもん!絶対一人で帰ってみせるもん‼︎」
司は眼を釣り上げると憤然としながら、西も東も分からない町をガツガツと歩き始めたのだった。
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