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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
赤いカシミアのチェスターコートを着て黒いストールを巻きつけた司が玄関を出ようとするのを、泉は追いかける。
「お待ちください。司様!」
司は振り向きもせずに冷たい口調で答える。
「なに?…これから大学も行くし、高輪の祖父母の家にも行くよ。…文句はないだろう?」
「そうではありません。…私は昨夜司様に酷いことを申しました。…それをお詫びしたくて…」
司の脚が止まる。
「…酷いこと…」
「…あんなことを申し上げるつもりはなかったのです。
ただ私は…司様が心配で…」
振り向いた司は泉を見上げ、ふっと自嘲するように笑った。
「…別にいいよ。…真紀が僕とセックスしたいだけなのは本当だろう」
「司様!」
司の形の良い唇が引き結ばれる。
薄茶色の瞳が瞬きもせずに泉を見据える。
「…それでも構わない。セックスだけが目当てでもいい。僕は真紀を愛しているから。
…だからもう、放っておいてくれ」
そのまま泉の前を通り過ぎようとする司の華奢な手首を思わず掴む。
「司様…!お待ちください!」
冷たい手がびくりと震え、すぐさま邪険に振り払われる。
「触るな」
無機質な声でそう言うと、司は車寄せに停まっている車に乗り込む。
「司様…」
窓越しにじっと見つめる泉に目を合わさずに、司は前を向いていた。
車はやがて滑らかに動きだし、ほどなくして屋敷の門扉の先へと消えていった。
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