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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
雨音が激しくなってきた。
光と薫の寝室にナイトキャップのホットワインやホットミルクを運び終えた泉は、廊下の磨き上げられた一枚硝子の窓から外を眺めた。
冷たい雨粒が窓に勢いよく叩きつける。
今にも雪に変わりそうな冬の漆黒の闇を見つめながらふと心配になる。
…司様は傘をお持ちになったかな…。
が、すぐに
…風間様がお車で送って下さるだろうから、大丈夫だろう…。
そう思い返し、カーテンを閉めようとした刹那…。
泉は信じられないものを目撃した。
門扉の手前、玄関に続く石畳の道を司が傘も差さずにずぶ濡れになりながら歩いているのが、仄明るいガス灯に照らされていた。
「司様…!」
泉は思わず叫ぶと大階段を駆け下りた。
玄関のドアを押し開ける。
大粒の雨が降りつける中、濡れ鼠になりながらこちらに歩いて来る司が目に入ってきた瞬間、泉は己れのジャケットを脱ぎ、駆け出した。
「どうされたのですか⁈こんなに濡れておしまいになって…!」
素早く司にジャケットを被せる。
司はぼんやりと泉を見上げ、呟く。
「…泉…」
茫然とした…迷い子のような表情だ。
泉は雨から司を守るように抱きかかえた。
「とにかく中へ…。こんなにお身体が冷えていらっしゃる…」
強く抱けば砕けそうな華奢な身体を庇うように、中へと導く。
歩みもぎこちない司の肩を抱いたまま大階段を上がり、司の部屋に入る。
素早くバスルームに入り、バスタブに湯を溜める。
居間でまだぼんやりと立ち竦む司の身体を守るように、バスタオルをふわりと掛ける。
「コートをお脱ぎください。お風邪を引きます」
司は泉のなすがままにコートを脱ぐ。
濡れた髪をバスタオルで丹念に拭いてやる。
蒼ざめたように白い貌は、能面のように無表情であった。
いつもは表情豊かに光を放つ薄茶色の瞳は、伏せられたままだ。
お互いの吐息が掛かるほどの距離で向かい合いながら、司の髪を拭いていると、漸く視線が合った。
小さな声が聞こえた。
「…自分で…できる…」
「…では、どうぞ…」
タオルを渡す。
隣室の支度室に入り、バスローブを取り出し戻って来る。
「もうお湯が溜まります。温まっていらしてください」
「…うん…」
司は素直にバスローブを受け取り、ぼんやりとバスルームへと消えて行った。
光と薫の寝室にナイトキャップのホットワインやホットミルクを運び終えた泉は、廊下の磨き上げられた一枚硝子の窓から外を眺めた。
冷たい雨粒が窓に勢いよく叩きつける。
今にも雪に変わりそうな冬の漆黒の闇を見つめながらふと心配になる。
…司様は傘をお持ちになったかな…。
が、すぐに
…風間様がお車で送って下さるだろうから、大丈夫だろう…。
そう思い返し、カーテンを閉めようとした刹那…。
泉は信じられないものを目撃した。
門扉の手前、玄関に続く石畳の道を司が傘も差さずにずぶ濡れになりながら歩いているのが、仄明るいガス灯に照らされていた。
「司様…!」
泉は思わず叫ぶと大階段を駆け下りた。
玄関のドアを押し開ける。
大粒の雨が降りつける中、濡れ鼠になりながらこちらに歩いて来る司が目に入ってきた瞬間、泉は己れのジャケットを脱ぎ、駆け出した。
「どうされたのですか⁈こんなに濡れておしまいになって…!」
素早く司にジャケットを被せる。
司はぼんやりと泉を見上げ、呟く。
「…泉…」
茫然とした…迷い子のような表情だ。
泉は雨から司を守るように抱きかかえた。
「とにかく中へ…。こんなにお身体が冷えていらっしゃる…」
強く抱けば砕けそうな華奢な身体を庇うように、中へと導く。
歩みもぎこちない司の肩を抱いたまま大階段を上がり、司の部屋に入る。
素早くバスルームに入り、バスタブに湯を溜める。
居間でまだぼんやりと立ち竦む司の身体を守るように、バスタオルをふわりと掛ける。
「コートをお脱ぎください。お風邪を引きます」
司は泉のなすがままにコートを脱ぐ。
濡れた髪をバスタオルで丹念に拭いてやる。
蒼ざめたように白い貌は、能面のように無表情であった。
いつもは表情豊かに光を放つ薄茶色の瞳は、伏せられたままだ。
お互いの吐息が掛かるほどの距離で向かい合いながら、司の髪を拭いていると、漸く視線が合った。
小さな声が聞こえた。
「…自分で…できる…」
「…では、どうぞ…」
タオルを渡す。
隣室の支度室に入り、バスローブを取り出し戻って来る。
「もうお湯が溜まります。温まっていらしてください」
「…うん…」
司は素直にバスローブを受け取り、ぼんやりとバスルームへと消えて行った。