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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
豪華な聖夜の晩餐が済み、招待客は大客間に移動し始める。
男性はブランデーと葉巻を愉しみ、女性は温かいショコラとシュトーレンを愉しむ。
その間に舞踏室では下僕達と弦楽四重奏楽団が舞踏会の準備を進めるのだ。
皆が賑やかにお喋りしながら廊下を移動する中、司は何か思いあぐねた様子で脚を止めていた。
泉は気になり、思わず彼の元に近づく。
「どうされました?司様。…さあ、皆様もうお入りですよ」
司は暫く俯き黙っていたが、やがて貌を上げ泉を見上げた。
「…やっぱり行ってくる」
泉は眉を顰めた。
「行く?どちらへですか?」
「…真紀のところに行って来る。…会えないかも知れないけれど、それでもいいから…。
…済まないが礼也さんと光さんには、急用が出来たから出掛けたと伝えてくれ」
足早に玄関ホールに向かおうとする司の腕を掴む。
「お待ちください」
司が振り返る。
「…真紀様には交際している女性がいらっしゃるのではありませんか?」
司の貌が強張る。
「…な、何を…!」
泉は司の腕を引き寄せる。
瞬きもせずに司の薄茶色の美しい瞳を見つめる。
「…そんな方のところに行かれてどうするのですか?」
「…離せ…」
もがく司のほっそりとした腕を強く握りしめる。
「行かれても貴方が傷つかれるだけです」
「うるさい!」
渾身の力を振り絞り、司は泉の手を振り離した。
激しい怒りの炎を瞳に灯し、司は叫ぶ。
「僕はまだ真紀から何も聞いていない!真紀の口から聞くまでは何も信じない!…僕は…僕は真紀を信じている!」
そう言い放つと司は玄関ホールを駆け抜け、扉を押し開けると屋敷を出て行った。
「お待ち下さい!司様!」
追いかけようとした泉の身体が背中から抱き留められる。
驚いて振り返ると、薫が泣きそうな貌で唇を歪ませていた。
「行かないでよ、泉!」
「薫様…」
「行っちゃ嫌だよ、司さんのところに行かないで…」
強く抱きしめられ、泉は大きく息を吐いた。
…開かれた扉からは、粉雪が音もなく吹き込んで来るばかりであった。
男性はブランデーと葉巻を愉しみ、女性は温かいショコラとシュトーレンを愉しむ。
その間に舞踏室では下僕達と弦楽四重奏楽団が舞踏会の準備を進めるのだ。
皆が賑やかにお喋りしながら廊下を移動する中、司は何か思いあぐねた様子で脚を止めていた。
泉は気になり、思わず彼の元に近づく。
「どうされました?司様。…さあ、皆様もうお入りですよ」
司は暫く俯き黙っていたが、やがて貌を上げ泉を見上げた。
「…やっぱり行ってくる」
泉は眉を顰めた。
「行く?どちらへですか?」
「…真紀のところに行って来る。…会えないかも知れないけれど、それでもいいから…。
…済まないが礼也さんと光さんには、急用が出来たから出掛けたと伝えてくれ」
足早に玄関ホールに向かおうとする司の腕を掴む。
「お待ちください」
司が振り返る。
「…真紀様には交際している女性がいらっしゃるのではありませんか?」
司の貌が強張る。
「…な、何を…!」
泉は司の腕を引き寄せる。
瞬きもせずに司の薄茶色の美しい瞳を見つめる。
「…そんな方のところに行かれてどうするのですか?」
「…離せ…」
もがく司のほっそりとした腕を強く握りしめる。
「行かれても貴方が傷つかれるだけです」
「うるさい!」
渾身の力を振り絞り、司は泉の手を振り離した。
激しい怒りの炎を瞳に灯し、司は叫ぶ。
「僕はまだ真紀から何も聞いていない!真紀の口から聞くまでは何も信じない!…僕は…僕は真紀を信じている!」
そう言い放つと司は玄関ホールを駆け抜け、扉を押し開けると屋敷を出て行った。
「お待ち下さい!司様!」
追いかけようとした泉の身体が背中から抱き留められる。
驚いて振り返ると、薫が泣きそうな貌で唇を歪ませていた。
「行かないでよ、泉!」
「薫様…」
「行っちゃ嫌だよ、司さんのところに行かないで…」
強く抱きしめられ、泉は大きく息を吐いた。
…開かれた扉からは、粉雪が音もなく吹き込んで来るばかりであった。