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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
「…今のひとは…誰…?」
「…司…」
頭の中がしんと静まり返っていた。
人間は想像を絶する出来事に遭遇すると、却って冷静になるのだと初めて知った。
「…婚約…て何?…誰と誰が婚約するの?」
寒さとショックで身体の感覚がまるでない。
けれど目の前の男を瞬きもせずに見つめる。
…僕の恋人…
この人は僕の恋人なのだ…。
他の女性と婚約なんて…あり得ない…。
真紀は目を閉じ大きくため息を吐くと、観念したかのように口を開いた。
「…司…。落ち着いて聞いてくれ。僕は禮子と…国枝病院の院長の娘の禮子と婚約した」
「…どうして…?」
声が擦れて言葉にならない。
「家を立て直す為だよ。…俺には没落した新城家を立て直す責任がある。弟はまだ中学生だ。良い学校に進ませてやりたいし大学にだって行かせてやりたい」
「…だって…そんなの真紀が医者になったら…」
苛立ったように髪をかきあげる。
「俺が一人前の医師になって稼げるようになるまで何年かかると思っているんだ‼︎…とても待てないよ。
…禮子と結婚したら駿河台にあるあの国枝病院は俺のものになる。禮子の父親は俺のゼミの教授の親友でね。…パーティで知りあったらその場で一目惚れしてくれたよ。…フフ…世間知らずのお嬢様なんか簡単だよな。
貌と頭が良い医学生ならころりと参ってくれるんだから…」
…こんなのは知らない…。
こんなのは僕が知らない真紀だ…。
「…僕を…騙したの?」
蒼ざめた人形のような司を見て真紀は一瞬貌を歪めた。
「騙した訳じゃない。…言えなかったんだ。お前を傷つけたくなかったから…」
「…でも…このまま真紀は結婚をして…僕とはどうするつもりだったの?」
真紀は少しの沈黙ののち、司の肩を引き寄せた。
そして言い聞かせるように語りかけた。
「…じゃあ聞くけど、お前は俺とどうしたかったんだ?結婚か?…無理だろう。俺たちは男同志だ」
「…でも…フランスでは同性でも結婚するカップルがいる…」
司の肩を掴む手に力が入る。
「ここはフランスじゃない!同性愛なんかに理解の欠片もない日本だ!男同志が愛し合ったって非難と軽蔑の目で見られるだけだ!」
びくりと身を竦ませる司に、今度は優しく囁く。
「…このままでいいじゃないか…。俺は結婚するけれど、お前と別れるつもりはない。お前とはこのままの関係を続けたい」
司は思わず眼の前の男を凝視した。
「…司…」
頭の中がしんと静まり返っていた。
人間は想像を絶する出来事に遭遇すると、却って冷静になるのだと初めて知った。
「…婚約…て何?…誰と誰が婚約するの?」
寒さとショックで身体の感覚がまるでない。
けれど目の前の男を瞬きもせずに見つめる。
…僕の恋人…
この人は僕の恋人なのだ…。
他の女性と婚約なんて…あり得ない…。
真紀は目を閉じ大きくため息を吐くと、観念したかのように口を開いた。
「…司…。落ち着いて聞いてくれ。僕は禮子と…国枝病院の院長の娘の禮子と婚約した」
「…どうして…?」
声が擦れて言葉にならない。
「家を立て直す為だよ。…俺には没落した新城家を立て直す責任がある。弟はまだ中学生だ。良い学校に進ませてやりたいし大学にだって行かせてやりたい」
「…だって…そんなの真紀が医者になったら…」
苛立ったように髪をかきあげる。
「俺が一人前の医師になって稼げるようになるまで何年かかると思っているんだ‼︎…とても待てないよ。
…禮子と結婚したら駿河台にあるあの国枝病院は俺のものになる。禮子の父親は俺のゼミの教授の親友でね。…パーティで知りあったらその場で一目惚れしてくれたよ。…フフ…世間知らずのお嬢様なんか簡単だよな。
貌と頭が良い医学生ならころりと参ってくれるんだから…」
…こんなのは知らない…。
こんなのは僕が知らない真紀だ…。
「…僕を…騙したの?」
蒼ざめた人形のような司を見て真紀は一瞬貌を歪めた。
「騙した訳じゃない。…言えなかったんだ。お前を傷つけたくなかったから…」
「…でも…このまま真紀は結婚をして…僕とはどうするつもりだったの?」
真紀は少しの沈黙ののち、司の肩を引き寄せた。
そして言い聞かせるように語りかけた。
「…じゃあ聞くけど、お前は俺とどうしたかったんだ?結婚か?…無理だろう。俺たちは男同志だ」
「…でも…フランスでは同性でも結婚するカップルがいる…」
司の肩を掴む手に力が入る。
「ここはフランスじゃない!同性愛なんかに理解の欠片もない日本だ!男同志が愛し合ったって非難と軽蔑の目で見られるだけだ!」
びくりと身を竦ませる司に、今度は優しく囁く。
「…このままでいいじゃないか…。俺は結婚するけれど、お前と別れるつもりはない。お前とはこのままの関係を続けたい」
司は思わず眼の前の男を凝視した。