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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
「…どういう意味…?」
真紀の手が司の氷のように冷たい頬を撫でる。
温かい手なのに今はとても遠い。
愛しい真紀の手とはとても思えない…見知らぬ人のような手であった。
「…禮子に分からなければいいじゃないか」
追い討ちを掛けるような言葉が真紀の唇から漏れる。
それと同時に司の身体は真紀の長い腕に抱き込まれた。
「…このまま、ひっそりと愛し合おう。…俺は禮子と結婚するけれど、お前を愛しているよ。手放したくはない。
…禮子に分からないようにこれからも付きあっていこう。別に何も問題はないだろう。どうせ俺たちは結婚出来る訳じゃないんだし…」
…な、司…と、甘く囁きながら貌を引き寄せられる。
真紀の言葉が頭の中を回り、それが理解できるまでかなりの時間を要した。
真紀の唇が司の冷たい唇に重なる。
…いつも真紀にキスされる時は嬉しくて、天にも昇る心地だった。
ポンデザール橋でキスされた日…。
嬉しくて泣きそうだったあの日…。
…あの日は最早遠すぎて、本当にあった日々だったのだろうか…。

抵抗しない司の様子を承諾と取ったのか、真紀は司を壁に押し付け、大胆に唇を求め始めた。

先ほどの縣家のパーティの風景が蘇る。
…暁と月城…。
二人は愛し合い、信頼し合い、心底幸せそうであった。
男同志だけど結婚し、周りに祝福されていた。

…なのに…
なのに僕は…。

不意に惨めな苦い思いが胸の中に溢れ、司は必死で真紀を突き飛ばす。
「…そんなの…そんなの嫌だ。…僕は真紀を誰かと共有するなんて嫌だ。
…真紀が言っているのは僕に愛人になれと言うことだろう?…冗談じゃない。僕は…僕は君の一番じゃないと嫌だ!」

真紀はふっと溜息を吐き、冷ややかに笑った。
「…だからお前は苦労知らずのお坊ちゃまだと言うんだ。世の中の全ては自分の思い通りになると思っている。…自分の力ではどうしようもないこともあるって、考えたこともない」
そして再び甘く宥めるように囁き、司を壁に押し付ける。
「…司…。愛しているんだよ。俺を拒むなよ。…いい子だから…」
抱きすくめられ、司は真紀の腕の中でもがく。
「いや…だ!…はなして…!」
「言うことをきけよ、司…」
唇を奪われそうになった刹那、強い力で真紀を押し退け司を庇う人影が現れた。
「司様から手をお離しください!」
司はその逞しい男を見上げ、目を見張った。
「泉!」
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