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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第6章 いつか、愛を囁いて
「…最悪のイブだ…」
司は泉が差し出した手巾でぐずぐずと洟をかみながら、溜息をついた。

降りしきる雪の中、漸く屋敷に辿り着いたはいいが司が…
「こんな貌でみんなの前に出たくない。下僕やメイドにも貌を合わせたくない」
と嫌がったので、泉は仕方なく司を温室に連れてきた。
冷え切った司を直ぐに温める必要があったからだ。

「ここはどのお部屋より温かいですからね」
司の髪から雪を振り払い、タオルで拭いてやる。
「…本当だ…。まるで南国みたいに温かい…」
司は周りを見渡した。
礼也は世界中の珍しい花々の種や苗を集め、日本に根付くように庭師に研究をさせている。
ここは南国に咲く蘭やココ椰子、バナナの木まで植わっているので一年中、まるで夏のような陽気に保たれているのだ。
温かい暖気で蒼ざめていた司の頬がうっすらと色づき始めた。
泉はほっとした。

「何かお飲物をお持ちいたします。…何がよろしいですか?」
司は直ぐに答えた。
「…君が淹れたジンジャーの飲み物が飲みたい」
泉はそっと笑った。
「チャイですね。少しお待ちください」
泉は一礼すると、温室を後にした。


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