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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第8章 真夜中のお茶をご一緒に
「泉はいかないの?」
菫が不思議そうな貌をする。
「はい。泉はお風邪の司様のお世話をいたしますので、今回はお屋敷に残ります。菫様は薫様と仲良く、箱根のお正月を楽しまれて下さいね」
「わかったわ!…司おにいちゃま、おくすりのこしちゃだめよ?ちゃんとおねんねするのよ?おねつがさがらないとおちゅうしゃになってしまいますからね?」
…ナニーの口癖をそのまま真似をする菫が可愛らしくて、司は思わず笑みを漏らす。
「はい。菫ちゃん。ちゃんといい子でねんねしてますね」
おしゃまなところは瑠璃子の小さな時に似ているな…。
…瑠璃子はもっとはにかみ屋さんだけれど…。
愛しい妹に想いを馳せる。

「やあ、みんな。ここにいたのか。そろそろ行かないと汽車の時間に遅れるよ」
美しいバリトンの声が響く。
イタリー製のツイードのスーツをりゅうと着こなした堂々とした伊達男ぶりの礼也が現れた。
「どう?司くん。具合は?」

「礼也さん。泉が司さんのお世話の為に残ってくれるそうよ」
礼也は安心したように温かい微笑みを浮かべた。
「それは良かった。…泉なら安心だ。料理に看護に力仕事、会計に語学に法律はプロ…!彼はなんでも出来るからね」
司は慌てて口を開く。
「いえ、本当に…僕一人で大丈夫ですから…」
司の言葉を遮るように泉が礼也の前に進み出て、一礼する。
「お任せ下さい。旦那様、奥様。…私が司様をしっかりとお世話させていただきますので、どうかご安心なさってご出発下さいませ」

…「回復したら箱根においで」との言葉を司に残し、礼也は菫を抱いて部屋を出た。
薫は光に腕を引張られながら、不承不承退出する。
最後に司を恨めしそうに見るのを忘れなかった。

司は肩を竦め、
「…このままだと僕は薫君に恨まれっぱなしだ」
泉は爽やかに笑い、
「それではお見送りに行ってまいります。
…それまでにお薬を飲んでおいてくださいね」
と、釘を刺し部屋を後にしたのだった。






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