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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第8章 真夜中のお茶をご一緒に
泉は就寝前に使用人用のバスルームでシャワーを浴び、青の縦縞の寝間着に着替え、ガウンを羽織る。
窓辺の椅子に腰掛け、煙草に火を点けた。
…喫煙は使用人には余り褒められた習慣ではないのだが、なかなか止められない。
…特に、気掛かりなことがある時には…。
古い窓枠がガタガタと鳴る。
…風が出て来たな…
明日は雪が舞うかもしれない。
…司様のお部屋の薪は足りていただろうか…。
ふと気になった時、泉の腕の中で華奢な身体を震わせていた司が胸に過ぎった。
…また恋をして傷つくのが怖い…。
震える声で吐露した司がいじらしかった。
お坊っちゃま育ちの司は、傷つくことに慣れていないのだろう。
次の恋に踏み出すのが怖いという司の素直な言葉は、泉の胸を打った。
泉は司に無理強いだけはしたくなかった。
かつての恋人、真紀に酷い別れ方をされた司が自分から泉を求めてくれるまでて待とうと心を決めた。
まだ失恋の傷が癒えていない司を、泉は優しく見守ることにしたのだ。
自分が若い青年だったら、そうは思わなかったかも知れない。
三十路も過ぎた今、18歳の司はひたすら可愛らしく、大切に守りたい存在だ。
若い頃の自分は暁を本気で愛していたし、兄から出来れば奪いたいと妄想し、暁の痴態を思い浮かべ、自らを慰めたことすらあった。
暁への恋を諦めてからは何度か恋愛紛いのことはあった。
男らしく整った容姿と野生的な魅力に満ち溢れている泉に言い寄る女は多かったからだ。
美しい貴族の青年に色目を使われ、関係を持ったこともあった。
だが、どんな恋も泉を夢中にはさせなかった。
魂が震えるような相手には出会えなかった。
司を見ると、愛おしさで胸が甘く締め付けられる。
少し我儘で、勝気で、泣き虫で、屈託のない…きらきらと輝く宝石のような煌めきを放つ司に泉は今、すっかり心を奪われてしまったのだ。
…恋とは愚かなものだな…。
あんな…まだ十代の青年に、夢中になってしまって…。
泉は苦笑する。
けれどそれに後悔は少しもない。
司は今や、泉にとってなくてはならない存在であったからだ。
…そろそろ寝もうか…。
ベッドに横たわり、ランプの螺子を捻った時だ。
…密やかなノックの音が響いた。
そして、続く小さな声…。
「…泉…。僕だ…」
「司様…?」
泉はベッドから起き上がった。
窓辺の椅子に腰掛け、煙草に火を点けた。
…喫煙は使用人には余り褒められた習慣ではないのだが、なかなか止められない。
…特に、気掛かりなことがある時には…。
古い窓枠がガタガタと鳴る。
…風が出て来たな…
明日は雪が舞うかもしれない。
…司様のお部屋の薪は足りていただろうか…。
ふと気になった時、泉の腕の中で華奢な身体を震わせていた司が胸に過ぎった。
…また恋をして傷つくのが怖い…。
震える声で吐露した司がいじらしかった。
お坊っちゃま育ちの司は、傷つくことに慣れていないのだろう。
次の恋に踏み出すのが怖いという司の素直な言葉は、泉の胸を打った。
泉は司に無理強いだけはしたくなかった。
かつての恋人、真紀に酷い別れ方をされた司が自分から泉を求めてくれるまでて待とうと心を決めた。
まだ失恋の傷が癒えていない司を、泉は優しく見守ることにしたのだ。
自分が若い青年だったら、そうは思わなかったかも知れない。
三十路も過ぎた今、18歳の司はひたすら可愛らしく、大切に守りたい存在だ。
若い頃の自分は暁を本気で愛していたし、兄から出来れば奪いたいと妄想し、暁の痴態を思い浮かべ、自らを慰めたことすらあった。
暁への恋を諦めてからは何度か恋愛紛いのことはあった。
男らしく整った容姿と野生的な魅力に満ち溢れている泉に言い寄る女は多かったからだ。
美しい貴族の青年に色目を使われ、関係を持ったこともあった。
だが、どんな恋も泉を夢中にはさせなかった。
魂が震えるような相手には出会えなかった。
司を見ると、愛おしさで胸が甘く締め付けられる。
少し我儘で、勝気で、泣き虫で、屈託のない…きらきらと輝く宝石のような煌めきを放つ司に泉は今、すっかり心を奪われてしまったのだ。
…恋とは愚かなものだな…。
あんな…まだ十代の青年に、夢中になってしまって…。
泉は苦笑する。
けれどそれに後悔は少しもない。
司は今や、泉にとってなくてはならない存在であったからだ。
…そろそろ寝もうか…。
ベッドに横たわり、ランプの螺子を捻った時だ。
…密やかなノックの音が響いた。
そして、続く小さな声…。
「…泉…。僕だ…」
「司様…?」
泉はベッドから起き上がった。