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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
薫は遠慮勝ちに尋ねる。
「…おじさま…。それは…絢子おばさまのこと…ではない…ですよね…?」
…絢子とは結婚しているのだから…。
大紋はどこかが痛むように眉を顰めた。
「…私は酷い男だな。…秘密にしてもらえるかい?絢子にも、暁人にも…」
薫は頷いた。
「…もちろんです…誰にも言いません」
大紋は薫の髪を優しく撫でた。
そのまま指を薫のなめらかな白磁のような頬に滑らす。
「…君は…暁に益々似てきたな…」
「よく言われます…」
…星南学院の音楽会に海外出張中の礼也に代わり、暁が光と出席したことがあった。
目敏く暁を見つけた友人が
「あの綺麗なひとは誰?薫にそっくりだな」
と目を見張ったものだ。
美しく優しい叔父は薫の自慢だ。
薫は誇らしげに答えた。
「僕の叔父様さ」

大紋は目を細め、愛おしみのような…けれどとても切ない表情をして薫を見つめる。
…叔父様に似ていることが、どうして大紋の小父様をこんな貌にさせるんだろう…。
大紋の精悍な貌がゆっくりと近づく。
薫の長く反り返る睫毛と大紋のそれが触れ合いそうになる寸前…大紋ははっと我に返ったような表情をして、薫から離れた。

「…君を見ていると、色んな想いに囚われてしまうな…」
ふっと寂しげに微笑み、暖炉の前から立ち上がる。
新しいブランデーをグラスに注ぎ、一気に呷る。
「…小父様は、その恋を諦めて後悔していない?」
大紋はゆっくりと振り返った。
先ほどの痛ましいような表情は、もはやない。

「昔はね。…でも、今は後悔していないよ。…なぜなら私が愛した人は今、とても幸せそうだからね…」
穏やかに答える大紋から貌を背け、また膝を抱える。
「…僕に泉との恋を諦めろ…て言いたいの?」
大紋は小さく笑う。
「いいや。そんなことは言わないさ。若いのにそんなに物分かり良くなる必要はない。…足掻いて、抵抗して…気がすむまでやればいいさ。…ただ…」
薫の傍らに再び腰を下ろし、諭すように言った。
「…恋はままならぬものだ。…もし泉くんが薫くんに振り向いてくれなくても、彼を恨んではいけないよ?
泉くんは恋ではないかもしれないが、君を愛しているには違いないのだからね…」
しみじみとした温かい言葉が胸に沁みいる。
「…小父様…」
涙が滲んだ瞳を見られたくなくて、薫は自分の膝に貌を埋めた。
大紋が薫の頭を優しく抱き込んだ。
「君はいい子だね…」

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