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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
「…小父様…僕は…」
薫が震える唇を開こうとした時、書斎のドアが控えめにノックされた。
「旦那様、奥様と暁人様がご帰還でいらっしゃいます」
密やかな声はこの家の執事だ。

ドアが開くとそこには品の良い葵の模様が入った小紋に椿の柄の帯を締めた絢子と、藍色の紬の着物に羽織を着た大人びた姿の暁人が佇んでいた。
薫はぼんやりと暁人を見上げた。
「…暁人…」
「薫!どうしたの?驚いたよ…言ってくれたら迎えに…」
言葉が途切れたのは薫が暁人に仔犬のように駆け寄り、遮二無二抱きついたからだ。
「薫?…どうし…」
戸惑いながら薫の背を抱いた暁人ははっと息を飲む。
薫が声を放って子供のように泣き出したからだ。
「…薫…」

「まあ…どうなさったの?薫さん。…どこかお具合がお悪いのかしら…」
おろおろと心配し始めた絢子の肩に、大紋は優しく手を置く。
「…暫く二人だけにしてやろう。
…絢子、麹町のお義父様とお義母様はお元気だったかい?」
「…ええ…。息災でしたわ。…暁人の背がまた伸びたので大層驚いておりました…」
絢子も察してドアをそっと閉め、夫に従い部屋を退出した。

「…薫…?何があったんだ?」
震える華奢な身体を抱きしめる。
薫は暁人の言葉には答えず、ひたすらその胸に縋り付き、いつまでも泣き続けたのだった。



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