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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
大紋の屋敷を出て暫く車を走らせる間、車内は沈黙だけが支配していた。
バックミラーで黙りこくる薫の貌を確認し、泉は口を開いた。
「…薫様、少し…お時間をよろしいですか?」
薫はゆっくりと貌を上げ、ミラー越しに泉を見つめ小さく頷いた。
泉が車を止めたのは、松濤の屋敷にほど近い植物園であった。
ここは縣家が所有し、管理している植物園だが、礼也が一般市民にも開放し始めてからは休日は家族連れなどで賑わう人気の場所であった。
冬のこと…しかもまだ三が日であるので人影も全くない遊歩道を薫は泉と並んで歩く。
林を抜けた先には小さな池があり、そこは薫がまだ小さな頃、よく泉に連れられてボートに乗ったり、水面を泳ぐアヒルに餌をやったりした懐かしい思い出の場所でもあった。
池の畔のベンチに薫を座らせ、泉は自分のマフラーを解くと薫の首に巻いた。
薫はまだ仏頂面のままそっぽを向く。
「いらない」
「今日は寒いです。お風邪を召すといけません」
「……」
…泉の愛用するトワレが薫を包み込む。
その温かさとともに、薫の胸は泣きたい気持ちで溢れる。
「…せ、泉だって寒いじゃないか」
やっと口を聞いてくれたことに泉はほっとし、微かに微笑む。
「私は大丈夫です。北国育ちですから」
薫はもう抵抗せずに黙った。
少しの間、二人はじっと凍えるように澄み切った冬の池の水面を見つめていた。
…そしてやがて…
「…薫様。…あんなところをお目に掛けてしまって、本当に申し訳ありませんでした」
苦渋に満ちた声が泉から発せられた。
薫は恐る恐る泉を見上げた。
「…執事が…お預かりしている大切なお客様と…あのような不埒なことを…。それを薫様に見せてしまうなど…。薫様がお怒りになるのは当然です。
もし我慢ならないのでしたら、旦那様に訴えられても良いのですよ。私は甘んじて罰を受けます」
泉の口からは冷静な陳謝が漏れた。
薫は唇を噛み締め、立ち上がる。
「違う!僕が聞きたいのはそんなことじゃない!そんなんじゃない!」
泉に向き直り、その腕を強く掴む。
「泉は…泉は司さんが好きなの⁉︎…セックスするほど好きなの⁉︎僕とはしてくれないのに⁉︎
…ねえ!答えてよ、泉‼︎」
バックミラーで黙りこくる薫の貌を確認し、泉は口を開いた。
「…薫様、少し…お時間をよろしいですか?」
薫はゆっくりと貌を上げ、ミラー越しに泉を見つめ小さく頷いた。
泉が車を止めたのは、松濤の屋敷にほど近い植物園であった。
ここは縣家が所有し、管理している植物園だが、礼也が一般市民にも開放し始めてからは休日は家族連れなどで賑わう人気の場所であった。
冬のこと…しかもまだ三が日であるので人影も全くない遊歩道を薫は泉と並んで歩く。
林を抜けた先には小さな池があり、そこは薫がまだ小さな頃、よく泉に連れられてボートに乗ったり、水面を泳ぐアヒルに餌をやったりした懐かしい思い出の場所でもあった。
池の畔のベンチに薫を座らせ、泉は自分のマフラーを解くと薫の首に巻いた。
薫はまだ仏頂面のままそっぽを向く。
「いらない」
「今日は寒いです。お風邪を召すといけません」
「……」
…泉の愛用するトワレが薫を包み込む。
その温かさとともに、薫の胸は泣きたい気持ちで溢れる。
「…せ、泉だって寒いじゃないか」
やっと口を聞いてくれたことに泉はほっとし、微かに微笑む。
「私は大丈夫です。北国育ちですから」
薫はもう抵抗せずに黙った。
少しの間、二人はじっと凍えるように澄み切った冬の池の水面を見つめていた。
…そしてやがて…
「…薫様。…あんなところをお目に掛けてしまって、本当に申し訳ありませんでした」
苦渋に満ちた声が泉から発せられた。
薫は恐る恐る泉を見上げた。
「…執事が…お預かりしている大切なお客様と…あのような不埒なことを…。それを薫様に見せてしまうなど…。薫様がお怒りになるのは当然です。
もし我慢ならないのでしたら、旦那様に訴えられても良いのですよ。私は甘んじて罰を受けます」
泉の口からは冷静な陳謝が漏れた。
薫は唇を噛み締め、立ち上がる。
「違う!僕が聞きたいのはそんなことじゃない!そんなんじゃない!」
泉に向き直り、その腕を強く掴む。
「泉は…泉は司さんが好きなの⁉︎…セックスするほど好きなの⁉︎僕とはしてくれないのに⁉︎
…ねえ!答えてよ、泉‼︎」