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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
「司くん、もう風邪はすっかり良くなったのかな?」
年始の挨拶に来た暁は、司の部屋を覗きに来てくれたのだ。
暁は相変わらず透明感のある美しさを放つ美貌と佇まいだった。
…暁さんは確かもう三十代半ば過ぎな筈…。
若々しくて…まだ二十歳そこそこの学生と言っても通るような瑞々しさなので、俄かには信じられない司だった。
司はそんな暁をやや眩しそうに見つめた。
「ありがとうございます。お陰さまでもうすっかり良くなりました」
…そして、そのマグノリアの花のように白い頬をうっすらと染める。
「…泉が…ずっと付いて看病してくれました…」
暁はふとその表情に目を見張った。
…まるで桜の花が一斉に咲いたかのような、華やかな色彩を感じさせるその表情は…。
…暁には身に覚えがあったのだ。
「…司くん。…もしかして…泉に恋してる?」
はっとしたように暁を見た後に、彼はその白い頬を薄紅色に染め貌を伏せた。
「…は、はい。…実は…」
…数日前に結ばれたのだと司の口から生々しい事実を聞き、暁は寝耳に水のことだったので大層驚いた。
が、同時に嬉しく思った。
「…そう。…泉はイブの時から司くんをとても気にしていたものね。…そんな気は少ししていたよ」
「僕…実はあの日に酷い失恋をして…。そんな僕を泉は優しく慰めてくれたんです。
…パリに帰りたいと弱音を吐いた僕に…ここにいてほしい…て。…それから、新しい恋をするのが怖いと言った僕に、いつまでも待つから…と。凍えそうな僕の心と身体を…泉は温めてくれたんです…」
恥じらいながらも幸せそうにとつとつと説明する司を、暁は懐かしいものを見るように、眼を細めた。
「…僕もそうだったな…」
「…え?」
司が睫毛を瞬かせる。
「…たった一つの恋を失って…希望も何もない暗闇の世界を彷徨っていた僕に、道標の灯りを灯して、手を差し伸べてくれたのが、月城だった…」
「…暁さん…」
…懐かしいな…。
そう呟いて、暁は司の手を握りしめた。
「…これから、色んなことがあると思う。良いことばかりではないかもしれない…でも、泉の手だけは離してはだめだよ」
暁の射干玉色の瞳を司はじっと見つめ、頷いた。
「…はい。暁さん…」
二人は黙って微笑み合った。
温かく穏やかな時間が流れ…しかしそれは不意に破られたのだ。
…いきなり扉が開き、二人は驚いてその闖入者を見上げた。
年始の挨拶に来た暁は、司の部屋を覗きに来てくれたのだ。
暁は相変わらず透明感のある美しさを放つ美貌と佇まいだった。
…暁さんは確かもう三十代半ば過ぎな筈…。
若々しくて…まだ二十歳そこそこの学生と言っても通るような瑞々しさなので、俄かには信じられない司だった。
司はそんな暁をやや眩しそうに見つめた。
「ありがとうございます。お陰さまでもうすっかり良くなりました」
…そして、そのマグノリアの花のように白い頬をうっすらと染める。
「…泉が…ずっと付いて看病してくれました…」
暁はふとその表情に目を見張った。
…まるで桜の花が一斉に咲いたかのような、華やかな色彩を感じさせるその表情は…。
…暁には身に覚えがあったのだ。
「…司くん。…もしかして…泉に恋してる?」
はっとしたように暁を見た後に、彼はその白い頬を薄紅色に染め貌を伏せた。
「…は、はい。…実は…」
…数日前に結ばれたのだと司の口から生々しい事実を聞き、暁は寝耳に水のことだったので大層驚いた。
が、同時に嬉しく思った。
「…そう。…泉はイブの時から司くんをとても気にしていたものね。…そんな気は少ししていたよ」
「僕…実はあの日に酷い失恋をして…。そんな僕を泉は優しく慰めてくれたんです。
…パリに帰りたいと弱音を吐いた僕に…ここにいてほしい…て。…それから、新しい恋をするのが怖いと言った僕に、いつまでも待つから…と。凍えそうな僕の心と身体を…泉は温めてくれたんです…」
恥じらいながらも幸せそうにとつとつと説明する司を、暁は懐かしいものを見るように、眼を細めた。
「…僕もそうだったな…」
「…え?」
司が睫毛を瞬かせる。
「…たった一つの恋を失って…希望も何もない暗闇の世界を彷徨っていた僕に、道標の灯りを灯して、手を差し伸べてくれたのが、月城だった…」
「…暁さん…」
…懐かしいな…。
そう呟いて、暁は司の手を握りしめた。
「…これから、色んなことがあると思う。良いことばかりではないかもしれない…でも、泉の手だけは離してはだめだよ」
暁の射干玉色の瞳を司はじっと見つめ、頷いた。
「…はい。暁さん…」
二人は黙って微笑み合った。
温かく穏やかな時間が流れ…しかしそれは不意に破られたのだ。
…いきなり扉が開き、二人は驚いてその闖入者を見上げた。