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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
「う、嘘を吐かないでくれ…泉と君が…セックス…?
まだ子どもの君に…そんな…!」
掠れた悲痛な声が司の唇から漏れる。
子どもという言葉に薫は形の良い眉を顰める。
「子どもですけれど、泉を愛する気持ちは誰にも負けません。もちろん貴方にも。
…泉と僕は相思相愛だったんです。泉は僕が大人になるまで待ってくれるって言ったんです。
…そこに貴方がいきなり割り込んで来たんですからね。僕はすごく迷惑しているんです」
「…そんな…。僕には…君とは何もないと確かに言ったんだ」
震える声で反論する司に、むっとしたように薫は唇を歪める。
そうして、司に対抗する為のとっておきのカードを差し出す。

「僕には泉はこう言いましたよ。
…僕が1番好きだって。…司さんよりも誰よりも僕が好きだって」
司の瞳が信じられないように大きく見開かれ、震える唇が紅く色を変えるまで噛み締められる。

司はさっと踵を返すと、小さな声で呟いた。
「…わかった。…もう僕は君と泉の仲を邪魔しないから安心してくれ…」
そのまま足早にプロムナードを横切り、去ろうとする司に、薫はやや慌てて声を掛ける。
「司さん!…それって…」

振り返った司の美しい貌は、静かな怒りに満ち溢れていた。
「…嘘つきは大嫌いだ。
…僕はつくづく好きな人に嘘を吐かれるようだよ…本当についてない…」
最後は寂しげに独りごちた。

薫は温室を去る司の後ろ姿を見送ると、先ほどとは打って変わって気弱な…泣き出しそうな貌で呟いた。
「…これくらいの意地悪したって…いいじゃないか…。
どうせ泉は司さんのことを選んだんだから…。僕じゃないんだから…」

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