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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
バチバチと火花を散らし合う二人の耳に遠慮勝ちなノックの音が聞こえた。
「…あのう。…何かお困りでしょうか…?」
新入りの下僕の声だ。

「いや、大丈夫だ。持ち場に戻ってくれ」
泉が口早に言ったのに対して、司はさっさとドアを開ける。
「丁度良いところに来てくれたね。…このスーツケース、玄関まで運んでくれるかな?」
花のように美しい笑顔で微笑まれ、先月長野の田舎から上京したばかりの純朴な下僕は真っ赤になりながら頷いた。
「は、はい!」
「運ばなくていい!」
泉が厳しい口調で制する。
「へ?」
キョトンとした貌の下僕に、司はにっこりと蕩けるような眼差しで微笑みかける。
「運んでくれる?…この人のことは気にしないで」
「は、はあ…」
下僕は泉に遠慮しながらも、司の美貌に魅せられたようにうっとりとしながらスーツケースを廊下に出した。
「司…様。…どちらに行かれるというのですか」
司はつんと顎を反らせ、泉の貌も見ずに答える。
「泉には関係ない」

真っ白なカシミアのコートを着込み臙脂色の編み上げブーツを履くと司は滑るように大階段を降りる。
足早に泉が追う。
「司様!」

司は玄関の車寄せでメルセデスの手入れをしていた運転手の前田に声を掛けた。
「前田さん。急で悪いけれど、高輪の風間家に行ってくれる?」
前田は目の前に現れた美貌の客人に眼を細めながら、にこにこする。
「司様は風間様のおうちにお年始のご挨拶ですか?お祖父様方は喜ばれるでしょうねえ」
前田は何度も高輪の祖父母宅に司を送迎しているので、特に不自然にも思わず下僕と共にスーツケースを荷台に運ぶ。

泉は車に乗り込む司の腕を捉え、耳元で囁いた。
「司…。大好きだよ。信じてくれ」
司の貌が一瞬、泣き出しそうに歪んだ。
「司…!行かないでくれ」
司は泉の手を振り払った。
そして美しい瞳を怒りで煌めかせながら
「どうせ誰にでも言うんだろう?」
そして
「バカ!タラシ!ロリコン!」
と泉にだけ聞こえるように毒づくとドアを閉めてしまった。

「…ちょっ…!ロリコンて…何言って…司様!」
必死で窓を叩く泉の努力も虚しく、車は滑らかに車寄せを離れ、眼の前から見る見る内に遠ざかって行くのだった。

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