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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
下僕かメイドが何か相談事を持ちかけに来たのだろうか…。
泉は煙草を灰皿に押し付け、居住まいを正す。
「…どうぞ…」

ゆっくりとドアが開き、おずおずと貌を覗かせたのは白い裾の長い寝間着姿の薫であった。
「薫様…?どうされましたか?」
「…泉…。あのね…僕…話があるんだ…」
緊張したような弱々しい声…。
白い素足…。
泉は素早く中に招き入れる。
「とにかくお入りください。また素足ですね?お風邪を引かれますよ」
薫をまだ火の気が残る暖炉の前に連れてくる。
薫は冷たい小さな白い手で、泉の手をぎゅっと握りしめた。
俯いたその表情はとても硬い。

…昔、まだ薫が幼い頃、よくこうして深夜に泉の元に駆け込んで来た。
「せん!おかあちゃまにしかられたの!カイザーがおかあちゃまのおくつをかじっちゃったから、一緒に寝ちゃだめだって!カイザーはかいだんしつで寝なさいって。
ランプも点けちゃだめって…。暗くてこわいよ、せん!いっしょに寝て!」
泣きながら泉の胸に飛び込んで来たものだ。

「…分かりました。それでは泉のベッドでご一緒に寝ましょうね」
泉は優しく薫を抱き上げ、自分のベッドに連れて行く。
添い寝してやり、子守唄を唄ってやると薫は泉に抱きついたまますやすやと眠った。
…暫くすると泉は薫を抱いて、階上の薫の子ども部屋まで大切に運ぶのだ。

…ふっとそんな昔の懐かしい光景を思い出す。
泉は自分のカーディガンを薫に羽織らせると、声をかける。
「キッチンで温かいココアを淹れてまいります。少しお待ち下さい」
行こうとする泉の手を掴む。
「いいんだ!泉…。行かないで…あの…ここにいて…」
いつもと様子が違う薫に、泉は立ち止まる。
「…はい…」
薫は泉の貌を見上げると、くしゃりと貌を歪めぽろぽろと涙を零しながら、叫ぶように口を開いた。
「ごめんなさい!泉…。ぼ、僕…司さんに嘘を吐いた…」
「…嘘…?」
「…ぼ、僕と泉は…セッ…セックスしてるって…!…泉は僕のことを恋人にしてくれるって約束したって…!
泉は僕のことを一番好きだって…!…う、嘘を吐いたんだ…!…だから司さんはショックを受けて出ていっちゃったんだ…。
司さんに泉を取られたのがやっぱり悔しくて…悲しくて…意地悪したくなっちゃったんだ…。本当に…本当に…ごめんなさい!」

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