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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
翌日の午後、泉は半休を貰い慌ただしく外出をした。
時間がなかったので、執事の制服の上に黒いカシミアのコート…礼也に下賜された最高級のイタリー製のものだ…を羽織り、足早に門扉を潜り抜けた。
敷地の曲がり角を曲がった刹那、後ろから強い力で腕を掴まれた。
はっと振り返る。
「…兄さん…!」
兄、月城森が冷たい彫像のような貌で泉を見下ろしていた。
「…話がある。来い」
腕を掴まれたまま引っ張られ、泉はむっとして手を振り離した。
「何だよ、いきなり。俺は急いでいるんだ。話ならまた今度にしてくれ」
月城の傍らを通り過ぎようとするとその刹那、前に立ちはだかられた。
月城は泉よりほんの少しだけ背が高いだけだが、姿勢が良いことと上背があるので、妙に威圧感がある。
氷のように怜悧な美貌に睥睨され、泉は思わず押し黙った。
「…どこに行くのだ?」
「に、兄さんに関係ないだろう…!」
再び足早に兄の前から通り過ぎようとするその背中に、冷え冷えとした声が飛んだ。
「司様のご実家か?」
反射的に振り返る。
月城は、お前のすることなどお見通しだと言わんばかりに形の良い薄い唇を歪めた。
「…来い。そのことで話があるのだ」
月城は泉の返事を聞くまでもなく、しなやかに歩き始めた。
その高慢な態度にカチンと来ながらも、司の件を知られているなら無視する訳にも行かず、泉は溜息を一つ吐くと兄の後ろを仕方なく付いて行った。
時間がなかったので、執事の制服の上に黒いカシミアのコート…礼也に下賜された最高級のイタリー製のものだ…を羽織り、足早に門扉を潜り抜けた。
敷地の曲がり角を曲がった刹那、後ろから強い力で腕を掴まれた。
はっと振り返る。
「…兄さん…!」
兄、月城森が冷たい彫像のような貌で泉を見下ろしていた。
「…話がある。来い」
腕を掴まれたまま引っ張られ、泉はむっとして手を振り離した。
「何だよ、いきなり。俺は急いでいるんだ。話ならまた今度にしてくれ」
月城の傍らを通り過ぎようとするとその刹那、前に立ちはだかられた。
月城は泉よりほんの少しだけ背が高いだけだが、姿勢が良いことと上背があるので、妙に威圧感がある。
氷のように怜悧な美貌に睥睨され、泉は思わず押し黙った。
「…どこに行くのだ?」
「に、兄さんに関係ないだろう…!」
再び足早に兄の前から通り過ぎようとするその背中に、冷え冷えとした声が飛んだ。
「司様のご実家か?」
反射的に振り返る。
月城は、お前のすることなどお見通しだと言わんばかりに形の良い薄い唇を歪めた。
「…来い。そのことで話があるのだ」
月城は泉の返事を聞くまでもなく、しなやかに歩き始めた。
その高慢な態度にカチンと来ながらも、司の件を知られているなら無視する訳にも行かず、泉は溜息を一つ吐くと兄の後ろを仕方なく付いて行った。