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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
…歳の離れた妹 凛は二人の兄にとって掌中の珠のような存在だった。
凛は兄譲りの美少女で、しかも明るく働き者の気立ての良い娘だった。
母親と二人、定食屋の看板娘として村中の人々に愛されていたが、五年前に父親の跡を継ぐ為に東京から帰郷した村長の息子に見染められた。
そして熱烈な求婚をされた結果、凛は彼を受け入れ嫁入りした。

当初は家の格の違いから凛が苦労をしないかと心配していたが、凛の利発で素直な性格は婚家でもすんなりと受け入れられた。
…尤も、嫁入りに当たり兄弟で豪華な嫁入り道具や高価な着物を揃えてやり、凛が肩身が狭くならないように心を砕いた。
美しい加賀友禅の黒引き振り袖に身を包んだ凛はどんな富豪の娘も敵わないほどに麗しく、輝いていた。
婚礼に出席する為に久々に帰郷した月城と泉に
「兄ちゃん…ほんにありがとね…」
と涙を流して頭を下げた。
凛の花嫁姿は泉が会ったどんな貴族の令嬢よりも美しく、気高く、気品に満ちていた。

今では姑や舅にも可愛がられ、若い村長夫人としても夫を支えて奮闘しているらしい。
また、昨年には待望の男の子を授かり、幸せ一杯に暮らしているようだ。

「…凛のところにまたおもちゃを送ってやらなくてはな…」
その口調には滲みでるような優しさが溢れていた。
「潤はまだ1歳だよ?着物の方がいいんじゃないか?」
「着物も送るがおもちゃも送る。知育玩具だ。脳の発育に良いおもちゃがあるのだ。先日、暁様と銀座の玩具屋で見つけたのでね」
「…へぇ…。まるで孫を可愛がる爺さんだね」
泉が茶化した途端、月城はむっとした貌のまま泉に詰め寄った。
「そんなことはどうでもいいのだ。
お前…司様と何があった⁉︎」
最後の方は声を押し殺し、泉を睨みつけた。

昨夜、暁に聞いたのだろう。
泉はあっさりと認める。
「…ああ。司様と寝たよ」
「お前…!」
月城は鋭い眼光で泉を見据えた。
「…自分がしたことの重大さを分かっているのか⁉︎」
こんなのにも憤りの表情を露わにする兄を、泉は久しぶりに見たと思った。
兄の氷の彫像のように冴え冴えとした美貌は、泉でもたじろぐほどに鋭利で、ぴりぴりと殺気立ってさえいた。

泉は居ずまいを正して、口を開いた。
「分かっているよ。…俺は…司を好きだ。…司を愛している」




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