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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
…兄が本音を曝け出したのは、初めてだった。
兄は弟の自分にも決して本心を吐露するようなことはなかった。
暁のことをどう思っているのかを語ることもなかった。
暁は兄といる時は今にも蕩けてしまいそうに幸せそうな表情をする。
兄と眼が合うだけでその白磁のような頬を薔薇色に染める。
もう共に住むようになってから13年も経つと言うのに、相変わらず新妻のような初々しさだ。
それに対して兄は公の場ではクールで恭しい態度は決して崩さない。
イブの晩餐会でもそうだった。
光の計らいで暁のパートナーとして招かれた晩餐会だったが、彼は常に控えめに存在し、暁と必要以上に触れ合うこともしなかった。
それは暁を慮り、彼の為に謙虚に禁欲的に徹しているのだろう。
だが、暁にずっと恋をしていた泉からするとそれは、兄の冷淡さのようにも見えた。
…兄さんは暁様に愛されて当然と思っているんじゃないか…。
そんな妬みの気持ちを持つほどに兄の表情や態度は淡々としていたのだ。
…だから…
「…兄さんは、暁様を愛している?」
直球で質問を投げかけてみる。
月城は驚いたように眼鏡の奥の瞳を見開いた。
そして、間髪を入れずに答えた。
「愛している。誰よりも。暁様は私の命だ」
思わず息を呑むほどに熱い温度を感じる表情の月城がいた。
「…暁様がいない人生はもはや考えられない。あの方と共に命を終えるのが私の唯一の願いだ…」
…この緻密で端麗な西洋の彫像のような姿をした兄が、熱い眼差しで、愛おしい伴侶への究極の愛を語り出す。
「…だからこそ、暁様に辛い思いをさせるのは忍びなかったのだ…」
…だから、お前には困難な道を歩んで欲しくはないのだと告げる兄に、泉はその美しい瞳にひたりと視線を合わせて静かに答えた。
「でも、兄さんは暁様に出会えて幸せだったんだろう?」
「…泉…」
「俺も兄さんと同じだよ。…司に出会えて良かったと思っている。これからの人生を司と共に歩みたい。
司を幸せにしたい。踏み出してもいないのに、諦めるのは嫌だ。…例え他の人に迷惑を掛けても、俺は司を諦めたくはないんだ」
…ごめん、兄さん。
頭を下げると、泉は卓に二人分の甘酒代を置き、風のように去って行った。
泉の後ろ姿が眼の前から消えた時…
「…相変わらず強情な奴だ…」
そう独りごちると月城は、ほんの少しだけ唇に微笑みを浮かべたのだ。
兄は弟の自分にも決して本心を吐露するようなことはなかった。
暁のことをどう思っているのかを語ることもなかった。
暁は兄といる時は今にも蕩けてしまいそうに幸せそうな表情をする。
兄と眼が合うだけでその白磁のような頬を薔薇色に染める。
もう共に住むようになってから13年も経つと言うのに、相変わらず新妻のような初々しさだ。
それに対して兄は公の場ではクールで恭しい態度は決して崩さない。
イブの晩餐会でもそうだった。
光の計らいで暁のパートナーとして招かれた晩餐会だったが、彼は常に控えめに存在し、暁と必要以上に触れ合うこともしなかった。
それは暁を慮り、彼の為に謙虚に禁欲的に徹しているのだろう。
だが、暁にずっと恋をしていた泉からするとそれは、兄の冷淡さのようにも見えた。
…兄さんは暁様に愛されて当然と思っているんじゃないか…。
そんな妬みの気持ちを持つほどに兄の表情や態度は淡々としていたのだ。
…だから…
「…兄さんは、暁様を愛している?」
直球で質問を投げかけてみる。
月城は驚いたように眼鏡の奥の瞳を見開いた。
そして、間髪を入れずに答えた。
「愛している。誰よりも。暁様は私の命だ」
思わず息を呑むほどに熱い温度を感じる表情の月城がいた。
「…暁様がいない人生はもはや考えられない。あの方と共に命を終えるのが私の唯一の願いだ…」
…この緻密で端麗な西洋の彫像のような姿をした兄が、熱い眼差しで、愛おしい伴侶への究極の愛を語り出す。
「…だからこそ、暁様に辛い思いをさせるのは忍びなかったのだ…」
…だから、お前には困難な道を歩んで欲しくはないのだと告げる兄に、泉はその美しい瞳にひたりと視線を合わせて静かに答えた。
「でも、兄さんは暁様に出会えて幸せだったんだろう?」
「…泉…」
「俺も兄さんと同じだよ。…司に出会えて良かったと思っている。これからの人生を司と共に歩みたい。
司を幸せにしたい。踏み出してもいないのに、諦めるのは嫌だ。…例え他の人に迷惑を掛けても、俺は司を諦めたくはないんだ」
…ごめん、兄さん。
頭を下げると、泉は卓に二人分の甘酒代を置き、風のように去って行った。
泉の後ろ姿が眼の前から消えた時…
「…相変わらず強情な奴だ…」
そう独りごちると月城は、ほんの少しだけ唇に微笑みを浮かべたのだ。