この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
高輪の風間邸に着くと、泉は思わずその屋敷の外観を見上げ、暫く茫然とした。
「…でかっ…!」
屋敷からほど近い場所に風間家が経営する日本初の完全西洋様式のホテル・カザマがある為か、私邸もまるで西洋のお城…バイエルンのノイシュバンシュタイン城を模したような白亜の邸宅であった。

落ち着いた重厚な英国様式の縣家に比べるとやや装飾過多な外観ではあるが、それでも風間家の富豪ぶりを推し量るには充分な屋敷である。
…司はやっぱり本当にお坊っちゃまなんだな…。
少し気後れする自分を鼓舞するように、咳払いをして姿勢を正す。

植え込みが見事に手入れされたアプローチを進み、大理石の階段を上がる。
そして玄関前、美しい装飾が施された扉のノッカーを叩く。

…程なくして、扉が静かに開き中から白髪混じりの髪を整然と整えた初老の執事が現れた。
彼は職業柄身に付いた形式的な微笑を浮かべながら、泉を驚きもせずに見る。
「…お待たせいたしました。…恐れ入りますが、お約束されたお客様でしょうか…?」
泉は胸を張り、穏やかに口を開く。
「連絡もなくお伺いしたご無礼をお許し下さい。
…私は縣男爵家で執事をしております月城と申します」
歌舞伎役者にしたいような品の良い執事の顔に合点が行った表情が浮かぶ。
「ああ…。これはこれは…。この度は司様が大変お世話になっております」
慇懃に頭を下げるのに対し、間髪を入れずに告げる。
「本日は司様をお迎えに参りました。…司様はこちらに…?」
気が急いて開いた扉から中を覗こうとするのに、執事がさり気なく泉の視界を遮る。
「…申し訳ございませんが、司様はただいま少々お気疲れのご様子で…。どなたにもお会いしたくないと仰いましてお取り付きをお断りさせて頂いております。
わざわざお運び頂いて恐縮ですが、本日はお引き取り願えませんでしょうか?」
言葉は柔らかく丁寧だが、鼠一匹通さない執事の気合が感じられた。
泉は扉を押し開かんばかりに粘る。
「ほんの少しで良いのです。司様とお話させて頂けませんか?…お貌を拝見しましたら失礼いたしますので」
執事は頑強な胸板で泉を押し戻すように立ちはだかり、言い放つ。
「申し訳ございません。司様はどなたにもお会いにはなりません。…司様は恐らくはもう縣様のお宅にはお戻りにならないでしょう。
主人が改めてお礼のご挨拶に伺うと男爵様にお伝え下さいませ」

/954ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ