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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第9章 さよなら、初恋
無情にも冷たく閉められた重厚な扉の前で泉は一瞬立ち尽くし、慌てて扉を叩いた。
「おい!爺さん!ちゃんと話しを聞けってばよ!」
…しかし直ぐに我に帰る。

…醜態を晒して縣家の名前に泥を塗るわけにはいかない。
と、自らに言い聞かせ、扉を打ち破りたい激情をぐっと堪えた。
…司…そんなに落ち込んでしまっているのか…。
司の気持ちを慮り、泉の胸はきりきりと痛む。
もっときちんと司のことを考えてやれば良かった…。
身体を一度繋げただけで、まだお互い何も知らない状態なのだ。
あんなことで口論をしてしまった自分が悔やまれる。
もう縣家に戻らないつもりなのか…。
…いや、そんなことはさせない!
自分が司をどれほど大切に思っているかを伝えなくては…。
泉は表情を引き締めると踵を返した。

正面の門扉から出て、広大な敷地の周りを一周する。
青銅の高い柵の間から聳え立つ城のような邸宅を見上げる。
一枚硝子の窓は全てカーテンで覆われ、中を窺い知ることは出来ない。

「…ちくしょう…!」
思わず毒づいたその時…。

「ねえ、あんた。誰か探しているの?」
糸杉の植込みの奥から女の声が聞こえた。
思わず振り返る。

煉瓦造りの使用人の作業棟らしき建物の裏手の石段で、黒いメイド服を着た三十絡みの女がこちらを見ていた。
泉はそのメイドに近づく。
女は煙草を咥え、石段にしどけなく座っていた。
「…君はここのメイド?」
女は泉の美男ぶりに眼を輝かせ、髪をかき上げながら立ち上がる。
「ええ、そうよ。キッチンメイドをしているの。…貴方は?」
いそいそと泉の前にやってきたメイドに人好きのする甘い微笑を浮かべる。
「俺は縣家の執事だ。…ねえ、司様の部屋はどこかな?…ここの執事に取次ぎを頼んだんだけど断られてしまってね」
女はうっとりとした眼で泉を見上げる。
「あら、かわいそう」
柵越しに女の頬を優しく撫で上げる。
「…司様に渡さなくてはならないものがあるんだ。渡したらすぐに帰るよ。…部屋の場所だけ教えてもらえないかな?」
「…フフ…本当は司様のお部屋なんて教えたら叱られるんだけど…」
「大丈夫。君から聞いたなんて言わないから」
泉の美声に、女は媚びるように瞬きをした。
そして紅い唇を窄めるとそっと囁いた。
「…こっちよ。裏から回れば誰にも会わないわ」


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