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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
「…僕は隣の家に住んでいる縣暁です」
月城の弟だという青年を前にして、暁は緊張しながらぎこちなく答える。
青年は、益々胡散臭げな貌で暁を見回した。
「…隣の家の人が何で兄貴の家にいるんだよ。…大体あんた、お金持ちのお坊ちゃんだろ?…高そうな服、着てさ。隣の家って、あれだろ?」
顎で暁の家を指し示して見せる。
「凄く立派な家じゃないか。
…そのあんたが何で兄貴の家にいるの?」
「…それは…あの…」
…恋人だと答えたいけれど、真実を答えたらこの青年は仰天するに違いない。
迂闊には話せない。
暁は口ごもり、青年が益々不審そうな目つきを強めた時、小径から慌ただしく駆けてくる足音が聞こえた。

「泉!…お前、どうしたんだ‼︎」
月城が執事の制服のまま、珍しく慌てた様子で駆け寄ってきた。
「月城!」
暁のほっとした様子を目に留め、月城は丁重に詫びる。
「暁様、申し訳ありません。…これは私の弟の泉です」
「…やっぱり…。良く似ているな…て思ったんだ」
暁はほっと息を吐く。
月城は厳しい眼を弟、泉に向ける。
「…お前、何をしているんだ?…先ほど、黒田公爵家の家令の方から連絡があった。…黒田公爵が酷くお怒りになって、お前に暇を与えたと…。
もしかして、ここにいるのでは…と思って来てみたら案の定だ。…一体何をしたのだ?泉!」
問い詰める月城に、泉はふて腐れたようにそっぽを向いて答える。
「…夫人にキスされたところを黒田公爵に見られただけだよ」
月城は眼鏡の奥の怜悧な瞳を見張り、声を荒げた。
「泉!」
泉は月城をにらみつける。
「俺が迫った訳じゃねえよ。夫人が俺を呼び出していきなり迫ってきたんだよ!」
余りに生々しい話に、暁は慌てて
「月城、とにかく中に入ろう。…家に来て。お茶でも飲みながらゆっくり話そう」
と、間に入り提案した。

月城は溢れ出す怒りをなんとか胸に封じ込め、頷いた。
そして、泉に厳しく言い放つ。
「…来なさい、泉。話は中で聞かせてもらう」
泉は反抗的な眼差しのまま、フンと貌を背けた。
暁は泉の様子が気になりつつも、二人を隣の自宅に誘うのだった。
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