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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第11章 海に映る星と月
礼也は健気な弟の貌を暫し見つめ、ふっと息を吐いた。
困ったように眉を上げて微笑む。
「…分かったよ。お前のその貌に見つめられると、私は何より弱いのだ」
「兄さん…!」
礼也はまるで愛おしい恋人を抱くように暁を抱きしめた。
「行っておいで。…月城くんのご家族に認めていただけるように祈っているよ」
優しく額を合わせて微笑む礼也の癖は、暁が幼い頃から変わらない。
暁が慣れない社交の前に不安そうな貌をしたり、礼也が長期出張で家を空けることを寂しがった時にする礼也のいつもの仕草だ。
…そして必ずこう言ってくれるのだ。
「可愛い暁…。お前が大好きだよ。お前が誰よりも幸せでありますように…」
美しく白い額に口づけを落とす。
月城の形の良い眉が僅かに動いた。
暁は全く気づかずに無垢な瞳で礼也を嬉しそうに見上げた。
礼也は暁のきめ細やかな頬を軽く弄りながら、月城を見る。
「家の下僕を随行させてくれと言いたいところだが、そこは譲歩する。
汽車は一等車で行きたまえ。もちろんこちらが手配する。君のご家族への土産も私に用意させてくれ。
…母君と…妹さんがおられたな?妹さんのお子はおいくつだ?」
「…いえ、縣様。それには及びません…」
慌てて断ろうとする月城に改めて丁寧な口調で懇願した。
「…月城くん。せめてそれくらいはさせてくれ。私の大切な弟を君の故郷に送り出すのだ。暁が如何に縣家にとって大事な存在か、分かって欲しいのだ。そして、君のご家族に温かく迎え入れていただきたいという私の親心なのだ」
「…兄さん…」
暁が感極まり、涙を零す。
月城は礼也の暁に対する並々ならぬ愛に今更ながら驚かされた。
父親の愛人の子どもを引き取り、14の歳から今までずっと変わらぬ愛を注ぎ続ける礼也の器の大きさにも驚嘆を覚えずにはいられない。
ただその感情の中に、純粋な兄弟愛だけではない…曖昧模糊とした色合いではあるが、どこか艶めいた感情があることを月城は見抜いていた。
…だからこそ、その想いに微かな嫉妬心を覚えずにはいられないのだ…。

月城は非の打ち所のない端麗に整った貌に穏やかな微笑みを浮かべ、恭しく頭を下げた。
「…縣様の暁様への深い愛情を、決して無駄にはいたしません。どうぞ私にお任せくださいませ」




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