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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第11章 海に映る星と月
束の間の静寂ののち、凜の穏やかな声が聞こえた。
「…知っとったよ、にいちゃん」
…にいちゃん…
子どもの頃の幼い呼び名に、月城がはっと貌を上げる。
凜は先ほどと少しも変わらない笑顔で月城に笑いかける。
「…だって、にいちゃんの手紙には暁様のことしか書いとらんかったもん。
…暁様が暁様が…て…」
可笑しそうに朗らかに笑う。
「…あれはまるで恋文やわ…。誰かて分かるわ」
「…凜…」
「…うちは暁様のお写真見ながらずっと思っとったよ。
この方がにいちゃんの大切な方なんやなあ…て。
にいちゃんはずっとうちらのことを考えて、うちらのために必死で働いてくれとった。うちはあんまり覚えておらんけど、昔は食べてゆくのがやっとやったって…。
泉にいちゃんや私が学校に行けたのも、母さんがお店出せたのも全部にいちゃんのおかげや。
…そのにいちゃんの心の支えはこのお伽話の王子様みたいな綺麗な方なんやなあ…て」
…うち、嬉かったんよ…。
そう暁に微笑みながら凜は告げた。
「…にいちゃんは自分の楽しみも幸せも全部後回しにして私らの幸せだけを考えて生きてきたんやと思う。
だから…嬉しかったんよ…。こんな綺麗な貴族のお坊ちゃまと知り合えて…惚気みたいな手紙を私に送るくらい…にいちゃんは今、幸せなんやなあ…て…。
なあ、母ちゃん…」
今まで二人の話をじっと聞き入っていた母親の楓が面を上げた。
年老いても尚、確固たる信念が感じられる強い北陸の女の眼差しが息子を見つめる。
その眼差しがかつてプラットホームで遥か遠くの東京に旅立つ息子を送り出した時のように、優しく細められた。
「凜の言う通りや。…森…今までありがとう。私らはもう大丈夫や。これからは自分の幸せだけを考えて、自由に生きていきなさい」
「…母さん…!」
くぐもった掠れた声が月城から発せられた。
「…うちはあんたが幸せならそれでええ。…あんたが元気で愛するひとと仲良う幸せに暮らしてくれたらそれで充分や…」
…そして…
息子を見つめるのと同じ温かな情を含んだ眼差しで暁を見上げた。
「…暁様。息子を…よろしゅうお頼み申します。
…それからここはもう暁様の故郷です。いつでも一緒にお越しください…こんな田舎、貴族のお坊ちゃまには似合わんかもやけど…」
「…いいえ…いいえ…お義母さん…」
…その後は涙が溢れて言葉にはならない暁を月城が優しく抱きしめた。
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