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夏の華 〜 暁の星と月 Ⅱ 〜
第2章 初戀のひと
泉は出されたおはぎをガツガツと平らげた。
月城は苦虫を噛み潰したような貌をして腕を組み、泉を睨みつけていた。
そんな月城に全く頓着せずに、
「あ〜、美味かった!…さすがブルジョアのうちのおはぎは美味いなあ〜」
と無邪気に声を上げた。
「泉!…お前、何を呑気にしているのだ。濡れ衣とはいえ、職場をクビになるなど…」
18歳で執事見習いとして北白川伯爵家に入り、厳しい執事に貴族の屋敷に仕える重要さ、責任の重さを一から叩き込まれ、必死に働きながら帝大を首席で卒業し、株の仲買人の資格も取った月城から見ると、弟の生き方が生温く思えて仕方がないのだ。
暁は、さりげなく泉を庇う。
「…黒田公爵夫人は艶聞家で有名だ。若い男なら見境なく秋波を送る方と言われている。…現に僕も何度か迫られた。…最も僕は夫妻両方から…だけどね」
思いがけぬ暁の発言に、月城は眉を上げて唇を歪めた。
「…暁様…!」
泉が無邪気に笑う。
「あんた、別嬪さんだもんな。無理ないよ」
「あんたとは何だ!暁様だ!」
「月城…いいから…」
泉は暁に屈託無く話しかける。
「ねえ、あんたいくつ?」
「24歳だよ。泉くんは?」
「え⁈俺より歳上⁈若く見えるねえ。…俺は二十歳だよ」
「馴れ馴れしく話しかけるな。…暁様は縣男爵家のご次男だ。お前が友達のように話しかけて良いお方ではない」
月城が、釘を刺すが泉はお構い無しだ。
「あ、そうだ。その男爵様のお坊ちゃまが、何で兄貴の家を出入りしてるのさ?」
暁は息を飲む。
なんと答えようか言い淀んでいると、月城が静かに即答した。
「…暁様は私の恋人だ」
泉が飲みかけていたお茶を吹き出し、盛大に噎せた。
「…なっ…なんだって…⁈」
「私の恋人だ。…だから馴れ馴れしく話しかけたりするな。…それから、この事はごく一部の人しか知らないことだから、多言は無用だ。いいな?」
冷静に念を押す兄と、その隣で白く美しい貌を桜色に染め、俯く青年を見る。
「…へえ…。…お貴族様は退廃した趣味を持つもんだけど…まさか堅物の兄貴がねえ…。ま、こんだけの美人ならその気持ちも分からなくもないけどね」
月城は興味津々に暁を無遠慮に見る泉の頭を小突く。
「痛えなあ。なんだよ!」
「月城!」
「口の利き方に気をつけろと言ったはずだ!暁様に無礼を働いたら許さないからな」
…おっかねえなあ…と泉は口を尖らせた。
月城は苦虫を噛み潰したような貌をして腕を組み、泉を睨みつけていた。
そんな月城に全く頓着せずに、
「あ〜、美味かった!…さすがブルジョアのうちのおはぎは美味いなあ〜」
と無邪気に声を上げた。
「泉!…お前、何を呑気にしているのだ。濡れ衣とはいえ、職場をクビになるなど…」
18歳で執事見習いとして北白川伯爵家に入り、厳しい執事に貴族の屋敷に仕える重要さ、責任の重さを一から叩き込まれ、必死に働きながら帝大を首席で卒業し、株の仲買人の資格も取った月城から見ると、弟の生き方が生温く思えて仕方がないのだ。
暁は、さりげなく泉を庇う。
「…黒田公爵夫人は艶聞家で有名だ。若い男なら見境なく秋波を送る方と言われている。…現に僕も何度か迫られた。…最も僕は夫妻両方から…だけどね」
思いがけぬ暁の発言に、月城は眉を上げて唇を歪めた。
「…暁様…!」
泉が無邪気に笑う。
「あんた、別嬪さんだもんな。無理ないよ」
「あんたとは何だ!暁様だ!」
「月城…いいから…」
泉は暁に屈託無く話しかける。
「ねえ、あんたいくつ?」
「24歳だよ。泉くんは?」
「え⁈俺より歳上⁈若く見えるねえ。…俺は二十歳だよ」
「馴れ馴れしく話しかけるな。…暁様は縣男爵家のご次男だ。お前が友達のように話しかけて良いお方ではない」
月城が、釘を刺すが泉はお構い無しだ。
「あ、そうだ。その男爵様のお坊ちゃまが、何で兄貴の家を出入りしてるのさ?」
暁は息を飲む。
なんと答えようか言い淀んでいると、月城が静かに即答した。
「…暁様は私の恋人だ」
泉が飲みかけていたお茶を吹き出し、盛大に噎せた。
「…なっ…なんだって…⁈」
「私の恋人だ。…だから馴れ馴れしく話しかけたりするな。…それから、この事はごく一部の人しか知らないことだから、多言は無用だ。いいな?」
冷静に念を押す兄と、その隣で白く美しい貌を桜色に染め、俯く青年を見る。
「…へえ…。…お貴族様は退廃した趣味を持つもんだけど…まさか堅物の兄貴がねえ…。ま、こんだけの美人ならその気持ちも分からなくもないけどね」
月城は興味津々に暁を無遠慮に見る泉の頭を小突く。
「痛えなあ。なんだよ!」
「月城!」
「口の利き方に気をつけろと言ったはずだ!暁様に無礼を働いたら許さないからな」
…おっかねえなあ…と泉は口を尖らせた。